「よし!」

 カスミの放った炎は亀の背中の木に直撃した。

「誰か火を消すんだ!」

「無理です! 暴れていて近づけません!」

 木が燃え上がり覚醒者たちが慌てる。
 しかし亀の頭も魔法が直撃して大きく炎上していて亀は激しく暴れている。

 背中の木をどうにかしたくても近づくことすらできない。

「くっ!」

 このまま亀が力尽きるのを待っていたら木も燃え尽きてしまう。
 一人の覚醒者の男が意を決したように亀に向かって首を切り落とした。

「はっ!」

 男はそのまま亀の背中に飛び乗って木を切る。

「消せ!」

 亀の背中から木を蹴り落とすと他の人が魔法で鎮火を試みる。

「…………もう遅いな」

 カスミが見たところ木はしっかり燃えていた。
 木になっていた実も燃えて黒くなっている。

 あまり近づいて確認すると火を放った本人だとバレてしまうかもしれないので遠巻きに確認するしかないが、無事に身が残っていても一、二個あるかないかだろう。

「くそっ!」

「誰が狙ったんだ!」

「それよりも攻撃の直前体が動かなくなったような……」

 倒された亀よりも木を囲んで覚醒者たちは大騒ぎしている。

「やりましたね、マサキさん! ……マサキさん?」

 亀も倒したし木も燃やした。
 喜ぶレイだったがマサキから反応はない。

「マ、マサキさん……?」

 振り返るとマサキはひどく鼻血を流していた。
 マサキは少し虚ろな目をして鼻から流れる血に触れて、レイのことを見た。

「少し……無茶しすぎたかもしれない……」

 亀も含めてその場にいた全員に同時に瞬間拘束のスキルを発動させるなど無茶だった。
 マサキがレイほどの能力があるならともかくEランクのマサキには本来全員にスキルを使うなどできないことだったのだ。

 限界を超えて力を使った。
 その反動がマサキに訪れていた。

「悪い……レイ…………あとは……頼む」

「マサキさん!」

 そのままフッと気を失ってマサキは倒れる。

「マサキさん、マサキさん!」

 レイが慌ててマサキに駆け寄る。
 息はあるけれどマサキはレイが声をかけても全く反応しない。

「どうしましたか!」

 他の人々がマサキたちのことを冷たくスルーする中でカスミが走ってきた。

「マサキさんが……!」

「何したらこんなことに……」

 マサキは鼻血で真っ赤になっている。
 ギョッとするほどの出血にカスミも顔をしかめた。

「ちょっと無茶しすぎたって……」

「……スキル」

 そういわれればそうだとカスミも思った。
 ほんのわずかな時間であったその場にいた全員の動きが止まった。

 少しの時間であっても全員の動きを止めるなんて簡単なことじゃない。
 きっと魔法ではなくスキルでやったのだとカスミにはすぐに分かった。

 スキルの限界を超えて力を使ったのだ。
 そしてこんなことになっている。

「外に運びましょう! 医療班がいるはずです!」

「わ、分かりました……!」

 こんな時には自分の経験不足が恨めしいとレイは思った。
 もっと色々知っていたら冷静に行動できたかもしれないのにと悔しい。

 カスミとレイは肩を抱えてなんとかマサキのことを外に運び出して待機していた医療班にマサキを任せたのであった。