異世界、パラレルワールド、並行世界、別次元といった他の世界は存在する。
 他の世界にも神や世界に住まう生き物もいる。
 
 互いに干渉することは基本的にないのであるがここ最近不干渉のルールが破られた。
 どうしても星には寿命があったり、何らかの要因のために世界が滅びることがあった。

 そうした世界の神は消えゆくのだけど、ある神が滅びゆく自分の世界と他の世界を繋いで侵略を始めたのだ。
 これがこのゲームの始まりといえる。

 他の世界を侵略するなんて許されない行いであるが、それを暇を持て余した神々が目をつけた。
 自分の世界をかけた戦い、滅びゆく世界からの移住、滅んだ世界の再生と侵略に様々な付加価値を加えて野蛮な侵略はいくたびの戦いを経てルールが設けられて洗練されてゲームとなった。
 
 最初は暇を持て余したり参加する理由のある世界の神だけが行っていたけれど、いつの間にか目をつけられた世界を舞台にこのゲームが行われるようになった。

「最後まで残り、侵略を成功させた世界やその神が世界を支配する。もはやいくつもの神が参加しているこのゲームに拒否権はなく、世界を守るためには参加するしかないのです」

 そして次に目をつけられたのがマサキの暮らす地球であったのだ。
 様々な混乱を生み、新たな時代の幕開けを喜んだ時期もあったのだが、それらは全て神による侵略のゲームなのであった。

「我々も努力をしました。しかしこれは向こうのゲーム。さらには私たちには言わなかったルールもありました」

「だから人類は敗北したというのか?」

「……そうです。ですが我々とてただ黙ってこの世界を奪われるつもりはありません。ルールを知らされなかったことに抗議しました。本来ならば既に負けが決まった勝負なのでもはや覆ることはないのですが、あなたがやってくれました」

「俺が? 俺は何も……最後にあのクソやろーのタマ潰してやったぐらい……」

「ふふふ……」

 初めて神様が笑った。
 口に手を当てて愉快そうにクスクスと笑顔を浮かべている。

「あれは見ものでしたね。そうです、そのおかげです」

「どういうことだ?」

「こちらからの抗議だけでなく向こうの種族からも要望が上がりました。やり直してほしいと。絶対破壊ですが実は神の力であれば治せないこともありません。
 しかしそうすると彼らは荒れ果てて使えなくなった世界を手に入れることになります。本来は世界の再生を望むつもりだったようですが……プフッ……タマと世界を天秤にかけなきゃいけなくなりました」

 勝負に勝ったものは神に一つ願いを叶えてもらえる。
 竜人族は荒れ果てた世界を人間のいない自然豊かな状態に戻して暮らすつもりだった。

 しかしそうすると竜人族の男のタマは潰れたままになる。
 世界を取るか、タマを取るか。

 世界を取ってもタマ無し竜人族では子を成せない。
 勝負に勝った英雄なのに今後は一生股間の痛みと付き合いながら子も成せないで生きていくしかない。

 屈辱だろう。
 けれどタマを治したところであるのは戦いによって荒廃した世界だけである。
 
 そこから再興していくことも不可能ではないだろうが、何世代にも渡って荒れた世界と付き合っていく苦痛をあじわうことになる。
 それなら竜人族の男が犠牲になればいいとマサキは神様の話を聞いて鼻で笑った。
 
 あのスカした竜人族の男が苦しんでいるのだと思ったら愉快でしょうがない。
 神様も笑っている。

「そこで向こうも知恵を働かせました。このゲームのやり直しを要求したのです。時を戻しまた最初からやり直せば……タマ、も無事なところからやり直せますから」

 よほどタマを潰したことがツボに入ったらしい。
 神様は話しながら時折笑いを堪えられないようである。

「時を戻してやり直すなんて許されないことなのですが今回はこちらの抗議とあちらの種族の願い、あちらの神もやり直すことを望みまして、特別にやり直すことにしました」

「やり直すったって時を戻すなら一緒だろ?」

「そうですね。時間を戻したところで同じことが起こるでしょう」

「じゃあ……」

「ですのでこちらも条件を付けました」

「条件?」

「こちらに有利に働く可能性の大きい変数を投入するのです」

「……それってまさかだけど」

「そうです。それが宇佐美将暉さん、あなたです」

「な、なんで! 俺じゃなくても他にもたくさん人はいたはずだ!」

「理由があるのです。最後まで残ってきたこともありますが、あなたはどの神からも支援を受けなかったからです」

「……はぁ?」

「特定の神の介入を避けるために神の支援を受けたことがある者は変数にすることができないと条件づけられました。ですのであなたなのです。どの神もあなたには……」

「ふ、ふざけるなよ!」

 将暉は怒った。

「なんだよそれ! 神の支援を受けなかった者? ふざけてんのか!」

「ふざけてなどいません」

「俺だって世界のために戦ってきたんだよ! 低い能力でも必死になって、命をかけて戦ったんだよ! なのに何だよそれ! 神様は俺に支援したことがないだって? 何なんだよ!」

 将暉の頭には他に時間を戻してやるべき人たちが浮かんでいた。
 しかしそうした人たちが選ばれなかった理由が神様に支援してもらったからだと神様は言う。

 逆に将暉は神様から支援してもらったことがなかったから選ばれた。
 そんなこと聞かされて納得出来るはずがない。