「最初の位置からだいぶ奥に入ることになるから少し慎重に行こう」

 モンスターに襲われても大丈夫だとは思うけれど奥に行くほどにモンスターも強くなる。
 マサキはともかくまだ未熟なレイがモンスターの奇襲を受けた時に怪我をしてしまう可能性がある。

「全くのノータッチ……というわけにもいかないだろうしな」

 焦らないのにも理由がある。
 最初の木にはまっすぐに向かっていった。

 やや分かりにくい場所にもあり他に人が来る前に処理できるだろうと分かっていた。
 しかしもうゲートに入ってから多少の時間が経っている。

 ゲートの中に広がっていった他の覚醒者たちが木を見つけていないだろうなんて楽観的な考えを持って行動するほどマサキも間抜けではない。
 きっともうすでに木は誰かに見つけられてしまっている。

 焦って駆けつけたところで手遅れになっている可能性の方が大きい。
 人を助けることも重要であるが、そのためにマサキやレイが危険にさらされることなどあってはならないのである。

「もう半分まで来ているのか」

 ゲートに入った時に出てきた表示は意識すると出したり消したりできる。
 モンスターを1000体倒せとなっていたところが489体となっている。

 もう既に500体以上のモンスターが倒されているのだ。
 多くがゲートから近い浅いところにいる弱いモンスターなのでモンスターを倒すペースは鈍化するだろうが、モンスターが減る速度は思っていたよりも速い。

「レイも慣れてきたな」

「そ、そうですか?」

 レイはオオカミのようなモンスターを倒していた。
 リスよりも数段上の強さのモンスターであるけれど、リスを倒して冷静になったレイは狼も倒してみせたのである。

 さすが現状でもCクラスの実力があるなとマサキは感心していた。

「ただまだスキルは覚醒しないか」

「……ごめんなさい」

「なんで謝るんだ? こういうのは焦るもんじゃない」

 覚醒者にはスキルというものがある。
 マサキの場合は瞬間拘束であり、覚醒してすぐに使い始めることができた。

 けれども覚醒した時にスキルも覚醒するとは限らない。
 モンスターとの戦いを経て覚醒するパターンもあるのだ。

 レイのスキルは覚醒時に使えるものではなかったのでモンスターと戦って覚醒させるしかない。
 回帰前レイと一緒に戦っていたマサキにはレイがどんなスキルを覚醒するのか分かっている。

 早めに覚醒してくれれば戦いにおいても楽になるぐらいなので焦らせるつもりはない。

「いつか覚醒するさ。そうなればもっと連携が取れる」

「覚醒できるように頑張ります!」

「ふっ、頼もしいな」

 レイの実力に不安はない。
 むしろ早く強ならなきゃ置いて行かれてしまうなとマサキの方が少し焦りを覚えていた。

「あっ、木がありますよ!」

 赤い実がなっている木が先の方に生えているのをレイが見つけた。

「この気を先に見つけたのは俺たちだ! だからこれも俺たちもんだ!」

「独占するつもりか! 周りにいたモンスターを倒したのは俺たちだぞ!」

「……やはり他の人に見つかっているか」

 木の周りには人がいた。
 二グループいて言い争っている声が聞こえている。

 マサキとレイは木の影に姿を隠してバレないように接近する。

「先に見つけた方に権利がある。残りはくれてやるからそれで我慢するんだな」

「モンスターをこっちに押し付けて先に確保しにいっただろう。この卑怯者め!」

 話を聞いてみると木の実の所有権を争っているようだった。
 ほぼ同時に木のことを見つけたが木の周りには気を守るようにしてモンスターがいた。

 二つのグループは共闘してモンスターを倒していたのだが、片方のグループが抜け駆けして木の実を確保してしまったようらしい。
 だから青っぽいものばかりで真っ赤なものがほとんどないのかとマサキは納得していた。

 ゲートの中で見つけたものは先に確保した人のものである。
 ただしそれは基本的なルールであり、状況によって解決の方法は様々である。

 共闘してモンスターを倒していたのに囮にされて先に木の実を取られたのではもう片方のグループも引き下がれないだろう。

「どうしますか?」

 どちらのグループにしても木の実を持って行こうとしている。
 毒ならば止めなきゃいけないとレイは思う。

「圧倒的な力でもあるなら割り込むんだけど……今は状況を見守るしかない」

「いいんですか?」

「毒だって言って信じてもらえるわけないだろ? それに俺たち二人じゃ全員を倒すこともできない」

 それぞれのグループに四人ずつ覚醒者がいる。
 能力が低いマサキとまだスキルも覚醒していないレイでは片方のグループだけを相手取るのも厳しい。

 仮に木の実が毒だと伝えたところで相手はきっと木の実を独占するための嘘だと思うだろう。
 即効性のある毒でもないので毒があると証明することも難しい。

 今は状況を見守るしかない。
 介入したところで話をややこしくしてしまうだけである。

「渡さないというのならこちらだって黙ってないぞ!」

「ふっ、どうするつもりだ? まさか手を出すつもりなのか?」

「ゲートの中で事故は付きものだろ?」

 一触即発の空気が高まっていく。
 このまま木の実を持っていかれるぐらいならと囮にされたグループの方が武器を構える。

 実際殺人は犯罪であるけれどゲート内で起きたことの証明は難しい。
 殺し合いに発展したところで証拠がなければ覚醒者には活躍してもらった方が有益であるという意見すら世の中にはあるのだ。