「そちらの彼もどうですか?」

 もはや今更感もあるがアサヤマはマサキにも声をかけてみる。

「……是非とも検討させていただきます。行こうか」

 そんな取ってつけたように誘われても嬉しくない。
 ただここで反抗的な態度を見せる必要もないので作り笑いを浮かべて歩き出す。

 アサヤマのおかげでこれ以上を声をかけてくるスカウトもいないし道もできた。
 マサキが歩き出すとレイも慌てたようにそれについていく。

「い、いいんですか?」

「スターワンギルドか? まあ悪いギルドじゃないけど……」

 何も知らなかった頃だったら輝いて見えるギルドだっただろう。
 けれど回帰前の経験として様々な人の結末を見た今ではスターワンギルドは最上級のギルドではない。

 それにアサヤマは神様のお気に入りでもない。

「まあ入るにしても俺がもっと良いところ見つけてやるよ」

 入るべきは大きなギルドではない。
 それにも理由がある。

「まあレイがどこかに入りたいっていうなら止めないけどな」

 レイの意思を無視してまで無理矢理マサキの計画に付き合わせることはできない。
 本気で抵抗されたらマサキの方が弱いし、無理に何かさせてもそれはレイのためにならない。

 レイがスターワンギルドやアサヤマに魅力を感じて行きたいというのなら、止めはするけど矯正をすることはできない。

「そんなことはないです。マサキさんに助けられた私はマサキさんと一緒に行動しますよ!」

 ただレイもスターワンギルドに行くつもりはなかった。
 マサキが行くというのならレイも行ってもいいと思うけれど、ナンパみたいに声をかけられたのは実はあまり好きでなかった。

「そっか、ありがとう」

「もちろんですよ! どんなギルドにだって一緒にいきましょう!」

「そうだな。だが今はまだギルドに入るつもりはないぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。ギルドに入れば利益は多いけどその分制限もあるからな」

 大型ギルドだろうと中小ギルドだろうとメリットとデメリットはある。
 どちらにしても自由な活動から制限されてしまうのでマサキは所属するつもりはなかった。

 覚醒者協会を出たマサキはスマホを取り出す。

「えーと……」

「これからどうするんですか?」

「お昼食べに行こうって言ってただろ? だからどこか行こう」

「あっ、そうですね!」

 スカウトなんて初めてのことでお昼を食べようと会話していたことをすっかり忘れていた。
 レイも受け取った両手いっぱいの名刺をいそいそとカバンにしまう。

「寄りたいところもあるし行こうか」

「はい!」

 あまり長居しているとまたスカウトしに来る人が出てくるかもしれない。
 スマホの地図を見ながらマサキたちは移動し始めた。

 覚醒者協会から十分ほど歩いたところに大きな商業施設がある。
 覚醒者協会が近いということですぐに覚醒者が来てくれる好立地にある栄えた複合商業施設である。

 レイのCSクラス覚醒を祝って回るお寿司を食べた。
 意外と大食いなレイはマサキよりも多くの皿を積み重ねて満足げにしていた。

「行きたいところっていうのはここですか?」

「ああ、覚醒者として活動するなら武器の一つぐらいなきゃな」

 そしてマサキたちが食事を終えてやってきたのは覚醒者専用の装備を売っているお店だった。
 人間の叡智を集め様々な企業がモンスターから採れた素材を使って色々な装備品を生み出していた。

 モンスターと戦うには基本的にこうしたモンスターから作られた装備品が必須となる。
 ギルドに入ればこうした装備品の購入金や装備そのものを支援してくれたりするのだけど、マサキたちはギルドに所属しないでフリーランスとして活動する。

 だから装備品も自分で買って揃えなければいけない。
 レイにしてみればこうした説明もなく、右も左も分からないのだ。

 分かっているマサキがこうしたところはリードしてあげる。

「いらっしゃいませ! どのような装備をお探しですか?」

「とりあえず予算10万円ぐらいで武器を二つ。ベーシックな剣であれば何でもいいです」

「う、マサキさん、私お金なんて……」

「ここは俺が出すから」

 この時のためにお金はちゃんと下ろしてきてある。
 スマホを二台買わないで取っておいたお金と少ないながらあった貯金を出せば武器ぐらいは買える。

 一般的な女子大生のレイにそんなにお金の余裕がないことは分かっていた。

「剣ですね。こちらです」

 剣が並ぶ一角にマサキたちは案内される。

「え、ええと……」

「持ってみて握りやすくて重たく感じすぎないものを選べばいいよ。そのうちもっとお金が手に入れば良いものとかオーダーメイドとかもあるけど今は……安めので我慢してくれ」

「そ、そんな! むしろ私の方こそお金出してもらっていいのか……」

 申し訳なさそうなマサキにレイも申し訳なさそうな顔をする。

「それはいいって」

 マサキには武器しか買ってあげられないことに心苦しさすらあるのだ。
 本当なら全身装備買ってあげたいところだったのだけど残念ながらマサキにもお金の余裕はない。

「いいから!」

「いふぁいでふぅー!」

 このままではこの押し問答が終わらない。
 後ろにいる店員の早よ選べやという笑顔の圧力もあるし恥ずかしい。

 いいから選んでくれとレイの頬を引っ張る。
 回帰前、恐怖に震えて動けなくなったマサキの頬をレイが引っ張った。

 何をするんだと怒るマサキにレイはイタズラっぽく笑って逃げるか行くか決めないからだよって言った。
 アレのおかげでまたマサキは戦うことができた。

 まあそんな重要な場面じゃないけど安い剣を選ぶぐらいで時間もかけていられないので回帰前のレイへの仕返しぐらいのつもりで頬を引っ張って判断を促す。