気分は悪くない。
むしろすごく良いぐらいである。
今のところマサキとレイの関係は悪くない。
むしろこの良い関係であるうちに畳み掛けるのがいいかもしれないとマサキは思った。
「……ウサミさん?」
急に笑顔を消して真剣な顔になったマサキにレイが不思議そうに首を傾げた。
「振り返らずに聞いてほしい。誰かにつけられてる」
ストーカー男はまだ付いてきていた。
この際だからレイの信頼を得るために是非とも利用させてもらうことにしようと思った。
「スダさん?」
マサキの言葉を受けてレイの動きが止まる。
「…………あの、その……」
レイの手が震えているのをマサキは見逃さなかった。
「……お腹でも空きましたね。近くのファミレスでも行きませんか?」
「えっ……?」
「いいから。俺が奢るので」
少し強引でも話を進める。
マサキの誘いで近くにあったファミレスに場所を移した。
運が良く窓から離れた席に案内されたのでここならば外から見えない。
「ファミレスに来るまでの間も多分同じやつがずっと同じ距離を保って付いてきていました」
マサキは改めてストーカー男について話す。
あたかも今気が付いたかのようにマサキにレイは気まずそうに暗い顔をしている。
「ストーカー……ですか?」
マサキの質問にレイの体がびくりと震えた。
どうやらレイはストーカー男について知らないわけではなかったようである。
知らないのかとも思っていたがそこまで鈍くはなかったようである。
「いつからいるのかは知らないんですが、ある時気づいたら知らない男の人が私の後をずっと付けてて……」
一度強く唇を噛んだレイはゆっくりと口を開いた。
「気のせいかとも思ったんですが……見るたび……いて…………」
なんてことはないように外から見えていたけれどレイは強い不安を抱えていた。
「人に相談して……警察にも行ったんですけど相手が何もしてこない以上は何も出来ないって。だからただストーカーされて……怖くて……」
うつむいたレイの目から涙がこぼれ落ちた。
激しい戦いを強いられる世界はレイを変えた。
元々物静かでおとなしい女性だったとレイは自身のことを語っていたのをマサキは覚えている。
生き残るためには周りと協力しなければならない。
明るく周りを励ましながら力強い子の素質はあったのだろうが、状況がレイにそうした姿を強いたのである。
あるいは自分で声を出して自分を鼓舞せねば心がもたなかったのかもしれない。
どうであれ今はまだただの女の子なのである。
このストーカー事件が影響を与えた可能性もある。
「ごめんなさい……こんなこと話されても迷惑ですよね」
「そんなことないさ。……俺が協力しようか?」
ここまで踏み込んでいいものが正直悩む。
しかしこれを逃したらいけないと勘が叫んでいる。
「協力……ですか?」
「ああ」
「どうやってですか?」
「ん……えっと」
ただ何も考えていなかった。
どうやってストーカー男に対抗するために協力するのか。
手っ取り早いのはストーカー男をとっちめることなのだが暴力的手段では色々問題がある。
期待するような目で見られてマサキは頭をフル回転させる。
「か、彼氏のフリはどうだ?」
例によって出てきたアイデアに自分で自分を殴りたいぐらいの気持ちになる。
「彼氏のフリ……ですか?」
「そ、そうだ。スダさんに彼氏がいると思えばストーカー男も諦めるかもしれない」
口を出た言葉は引っ込めることができない。
もうなるようになれ! とマサキはそのまま突き進む。
これでは結局ナンパしているのと大きく変わらないが彼氏のフリは悪くないのではないかと思う。
ただこんな提案をしてしまったことはすごく恥ずかしい。
「……その、ウサミさんが彼氏役……ですか?」
「ああ、やっぱり俺じゃイヤかな?」
「そんなことないですけど……ウサミさんこそ、こんなことに巻き込んで……私が彼女役だなんて」
レイは顔を赤くしてモジモジとしている。
マサキはそれに気づかず確かにあまり信頼関係のない相手にこのような提案されても引け目を感じるよなと思っていた。
「……スダさんは良い人だ」
「えっ?」
「あの公園にはたくさんの人がいた。同じく子を持つ人、休憩中のサラリーマン、公園を管理しているおじさん……誰も助けようとしなかった。でもスダさんは助けようとした。明らかに腕力でも敵わなそうな男に立ち向かったんだ」
それどころかレイは多くのモンスターと戦った。
人を守ろうとし、圭も守ってくれていた。
今は力もないのに人のためにとっさに立ち向かうことを選んだ。
「勇気ある行動だよ。そんな勇気を持っている人が今どれだけいるだろうな」
必要に迫られて戦うことなど誰でも出来る。
しかしそうでもないのに何かに立ち向かうには大きな勇気がいる。
「俺はそんな勇気あるスダさんを助けたいと思った。だから巻き込んだなんて考えないで頼ってほしい」
今のレイを助けることが回帰前のレイへの恩返しにもなる。
「ウサミさん……」
再びレイの目がウルウルとし出す。
泣くのはしょうがないかもしれないけれど周りの目がいい加減痛い。
「きっと近いうちに解決する。それまで俺がスダさんの彼氏役として、スダさんのことを守るよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
こうしてマサキはレイの彼氏役を演じることとなった。
具体的には大学までの送り迎えをしてそうした関係にあるとストーカー男に見せつけてアピールするのだ。
連絡先を交換してマサキはレイを家まで送り届けた。
「明日からよろしくお願いしますね」
送り迎えしてくれるだけでもかなり気分的に違うとレイは思った。
誰かが一緒にいてくれることの安心感があって少し胸が軽くなる。
レイは演技でもなく嬉しそうに笑って圭を見送り、ストーカー男はしっかりとそれを見ていたのであった。
むしろすごく良いぐらいである。
今のところマサキとレイの関係は悪くない。
むしろこの良い関係であるうちに畳み掛けるのがいいかもしれないとマサキは思った。
「……ウサミさん?」
急に笑顔を消して真剣な顔になったマサキにレイが不思議そうに首を傾げた。
「振り返らずに聞いてほしい。誰かにつけられてる」
ストーカー男はまだ付いてきていた。
この際だからレイの信頼を得るために是非とも利用させてもらうことにしようと思った。
「スダさん?」
マサキの言葉を受けてレイの動きが止まる。
「…………あの、その……」
レイの手が震えているのをマサキは見逃さなかった。
「……お腹でも空きましたね。近くのファミレスでも行きませんか?」
「えっ……?」
「いいから。俺が奢るので」
少し強引でも話を進める。
マサキの誘いで近くにあったファミレスに場所を移した。
運が良く窓から離れた席に案内されたのでここならば外から見えない。
「ファミレスに来るまでの間も多分同じやつがずっと同じ距離を保って付いてきていました」
マサキは改めてストーカー男について話す。
あたかも今気が付いたかのようにマサキにレイは気まずそうに暗い顔をしている。
「ストーカー……ですか?」
マサキの質問にレイの体がびくりと震えた。
どうやらレイはストーカー男について知らないわけではなかったようである。
知らないのかとも思っていたがそこまで鈍くはなかったようである。
「いつからいるのかは知らないんですが、ある時気づいたら知らない男の人が私の後をずっと付けてて……」
一度強く唇を噛んだレイはゆっくりと口を開いた。
「気のせいかとも思ったんですが……見るたび……いて…………」
なんてことはないように外から見えていたけれどレイは強い不安を抱えていた。
「人に相談して……警察にも行ったんですけど相手が何もしてこない以上は何も出来ないって。だからただストーカーされて……怖くて……」
うつむいたレイの目から涙がこぼれ落ちた。
激しい戦いを強いられる世界はレイを変えた。
元々物静かでおとなしい女性だったとレイは自身のことを語っていたのをマサキは覚えている。
生き残るためには周りと協力しなければならない。
明るく周りを励ましながら力強い子の素質はあったのだろうが、状況がレイにそうした姿を強いたのである。
あるいは自分で声を出して自分を鼓舞せねば心がもたなかったのかもしれない。
どうであれ今はまだただの女の子なのである。
このストーカー事件が影響を与えた可能性もある。
「ごめんなさい……こんなこと話されても迷惑ですよね」
「そんなことないさ。……俺が協力しようか?」
ここまで踏み込んでいいものが正直悩む。
しかしこれを逃したらいけないと勘が叫んでいる。
「協力……ですか?」
「ああ」
「どうやってですか?」
「ん……えっと」
ただ何も考えていなかった。
どうやってストーカー男に対抗するために協力するのか。
手っ取り早いのはストーカー男をとっちめることなのだが暴力的手段では色々問題がある。
期待するような目で見られてマサキは頭をフル回転させる。
「か、彼氏のフリはどうだ?」
例によって出てきたアイデアに自分で自分を殴りたいぐらいの気持ちになる。
「彼氏のフリ……ですか?」
「そ、そうだ。スダさんに彼氏がいると思えばストーカー男も諦めるかもしれない」
口を出た言葉は引っ込めることができない。
もうなるようになれ! とマサキはそのまま突き進む。
これでは結局ナンパしているのと大きく変わらないが彼氏のフリは悪くないのではないかと思う。
ただこんな提案をしてしまったことはすごく恥ずかしい。
「……その、ウサミさんが彼氏役……ですか?」
「ああ、やっぱり俺じゃイヤかな?」
「そんなことないですけど……ウサミさんこそ、こんなことに巻き込んで……私が彼女役だなんて」
レイは顔を赤くしてモジモジとしている。
マサキはそれに気づかず確かにあまり信頼関係のない相手にこのような提案されても引け目を感じるよなと思っていた。
「……スダさんは良い人だ」
「えっ?」
「あの公園にはたくさんの人がいた。同じく子を持つ人、休憩中のサラリーマン、公園を管理しているおじさん……誰も助けようとしなかった。でもスダさんは助けようとした。明らかに腕力でも敵わなそうな男に立ち向かったんだ」
それどころかレイは多くのモンスターと戦った。
人を守ろうとし、圭も守ってくれていた。
今は力もないのに人のためにとっさに立ち向かうことを選んだ。
「勇気ある行動だよ。そんな勇気を持っている人が今どれだけいるだろうな」
必要に迫られて戦うことなど誰でも出来る。
しかしそうでもないのに何かに立ち向かうには大きな勇気がいる。
「俺はそんな勇気あるスダさんを助けたいと思った。だから巻き込んだなんて考えないで頼ってほしい」
今のレイを助けることが回帰前のレイへの恩返しにもなる。
「ウサミさん……」
再びレイの目がウルウルとし出す。
泣くのはしょうがないかもしれないけれど周りの目がいい加減痛い。
「きっと近いうちに解決する。それまで俺がスダさんの彼氏役として、スダさんのことを守るよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
こうしてマサキはレイの彼氏役を演じることとなった。
具体的には大学までの送り迎えをしてそうした関係にあるとストーカー男に見せつけてアピールするのだ。
連絡先を交換してマサキはレイを家まで送り届けた。
「明日からよろしくお願いしますね」
送り迎えしてくれるだけでもかなり気分的に違うとレイは思った。
誰かが一緒にいてくれることの安心感があって少し胸が軽くなる。
レイは演技でもなく嬉しそうに笑って圭を見送り、ストーカー男はしっかりとそれを見ていたのであった。


