ヒールが痛いとパーティーを追い出されたヒーラーは痛み無効の獣人少女とのんびりできるところを探します

「じゃあ二部屋……」

「掃除が面倒だ。二人なら一部屋にしとくれ」

「……分かりました」

 エイルとミツナは男と女である。
 間違いを起こすつもりはない。

 でもやはり若い男女が同じ部屋では気をつかうことも多い。
 お金がかかっても二部屋借りられるなら気兼ねなく休むことができる。

 宿側だって空きがあるなら二部屋分借りてもらった方がいいだろう。
 だが時にはこんな理由で断られることもある。

 宿の部屋なんか汚れなきゃ掃除しないところもある一方でちゃんと使った後掃除するところもある。
 掃除はちゃんとする宿のようだが、宿のおばさんは真面目な気質ともいかないらしい。

 二部屋使ってもらうよりもエイルたちが出て行った後部屋を掃除することの面倒が大きいようだ。
 村で唯一の宿のようなのでエイルもわがままは言わない。

「旅してたら贅沢言ってらんない時もあるもんね」

 なぜかちょっと嬉しそうなミツナにエイルは慰められる。
 断られても特にショックではないし、ミツナが気にしていないならエイルも大きく気にしないことにする。

「綺麗な部屋だな」

 ちゃんと掃除をしていそうな雰囲気はあったので期待していた。
 いいベッドが置いていなくとも部屋が綺麗ならばそれだけでも十分である。

 そして部屋の中は期待通りに綺麗にしてある。

「ベッドはどこがいい?」

 四人部屋なのでベッドは四つある。
 どのベッドにも差はないが人によっては好みの場所がある。

「エイルが先に決めていいよ」

 四人部屋、あるいは二人部屋で泊まることもこれまでにはあった。
 いつもエイルはミツナに先にどこがいいのか聞くのだけど、いつもミツナはこう答えるのだ。

「じゃあ今日はここにしようかな」

 エイルもベッドの位置にこだわりはない。
 適当に奥側右手にあるベッドに決めた。

「じゃあ私はここ」

 エイルがベッドを決めるとミツナもベッドを決める。
 理由は分からないが特別なことがない限りミツナはエイルの隣のベッドを選ぶ。

 大体そうするのだろうと分かっているけれどきっとこれからもエイルは先にどこを選ぶか聞いて、結局隣同士を選ぶのだろうとなんとなく思った。

「食料など買いたいのですが売ってくれるところはありますか?」

 まだ日は出ている。
 移動時間も短いのでさほど疲れてもいない。

 休むには早いのでもう少し活動することにした。
 持ち歩く食料品は日持ちのするものが多いことが当然であるが、栄養や味を考えると細かく日持ちしないものの方がよかったりする。

 食べた食料や次の町までの食料は早めに買い足しておく必要がある。
 大きな町ならお店や市場があるけれど、小さな村だと自分たちの分しかなくて売っていないこともあるので事前に聞いておく。

 ついでに食事も出ないなら自分たちで作る必要もあるので新鮮な野菜でもあれば嬉しい。

「それならベディルンのところに行ってみればいい。ただ期待はしないでおくれよ」

「分かりました。ありがとうございます」

「村の逆側にある大きい家だよ」

 おばちゃんはぶっきらぼうだがちゃんと答えてくれる。
 エイルは宿を出てミツナとベディルンという人の家に向かう。

 周りに比べて大きな家は一軒だけだったのであれがベディルンの家だなとすぐに見つけられた。

「すいません」

 特にお店ではなさそうだなと思いながら玄関をノックして声をかける。

「はい……どちらさんだい?」

 やや腫れぼったい目をした中年の男がドアを開けて顔を覗かせた。

「食料を少し買わせていただけないかなと思いまして」

「食料を? ……いいけど…………あー」

「なんですか?」

 一瞬普通に買わせてもらえるのかと期待したが、ベディルンは急に渋い顔をした。

「お兄さんと……神迷の獣人か……は冒険者かい?」

 ミツナのことを見て眉をひそめたのを二人とも見逃さなかったけれど、ここで突っかかって問題を起こす必要などない。

「ええ、冒険者です」

「食料を分けてもいい。ただ一つ頼み事を引き受けてくれないか?」

「頼み事……?」

「こんなところで話すのもなんだ、入りなよ。……そっちの人も」

 ベディルンは神迷の獣人に対して偏見があるようだ。
 ミツナも苛立ちを覚えているけれど、ここまでで我慢することも学んだ。

 エイルと出会う前だったから一発殴っていたかもしれない。
 でもここはグッと堪えてエイルの後ろについて家に入る。

「野草を煮出したお茶もどきだ。高級なもんじゃないが口を潤すぐらいはできる」

 椅子に座ったエイルとミツナの前にベディルンはカップを置いた。
 薄く緑色の液体は村の近くで取れる野草を煮出したものだった。

 ただの水では味気ないが紅茶なんて買っている経済的余裕がない人がよくやる方法である。

「悪くないだろ?」

「ええ、そうですね」

 嘘の感想ではない。
 野草を煮出したお茶は紅茶なんてものの足元にも及ばないのがほとんどである。

 大体葉っぱの汁みたいな味がして、飲み慣れていないとキツイものだが、ベディルンが出したものは苦味や渋みが少なくて飲みやすかった。
 紅茶にははるか及ばないけれどもエイルの中ではかなり飲める方のお茶もどきであった。

「それで、頼み事とは?」

 軽く口を潤したところで本題に入る。