「くそッ! あれほど追いかけられるなと言ったのに!」
「イルージュさんは返してもらうよ!」
「させるか!」
投げ置いた剣までは少し遠い。
剣は諦めてナデクロシはナイフでミツナに襲いかかる。
「ふん! 外のやつを倒したというがその程度の実力か!」
ナデクロシはナイフをあまり扱わないがそれでもミツナよりも強かった。
ただの遊び人ではなく後継者となるべく努力は重ねてきていたのである。
「ゔっ!」
お返しとばかりにミツナの腹にナデクロシの蹴りが入った。
ミツナはゴロゴロと床を転がりナデクロシはミツナのことを鼻で笑う。
「さっさと殺してお楽しみタイムと……」
「やめろ!」
「やはり仲間がいたか!」
窓からエイルが飛び込んできてナデクロシに切り掛かる。
ナデクロシはナイフで剣を受け流すとエイルの懐に飛び込んでナイフを振るう。
「エイル!」
「チッ……流石に二人は辛いな」
上手くナイフを防御するエイルを助けようとミツナも戦いに加わる。
得意でもないナイフ一本でエイルとミツナの相手をすることはかなり厳しいとナデクロシは大きく舌打ちした。
「あっ!」
「こっちに来るな! こいつの命が惜しければな!」
一瞬の隙をついてナデクロシはイルージュを人質に取った。
首にナイフを突きつけてエイルとミツナを牽制する。
イルージュに手を出させるわけにいかない二人は下手に手を出すことができなくなってしまった。
しかし一方でナデクロシも動けない。
小屋の出入り口はエイルとミツナの後ろにある。
小さいナイフで油断すればすぐに攻撃を受けたりイルージュに逃げられてしまう可能性がある。
睨み合いのまま膠着状態が続く。
「あなたは……」
「あっ?」
イルージュは震えていた。
「あなただけは絶対に許さない!」
しかし震えている理由はナイフを突きつけられて恐怖しているからじゃなかった。
怒りだった。
弟であるオレイオスを殺され、こうして自分の結婚まで邪魔しようとしている。
大人しい内向的な性格のイルージュも耐えかねて怒りに震えていたのだ。
「なっ! この!」
「えっ!」
「ミツナ、今だ!」
怒りに震えるイルージュはナデクロシの腕に噛み付いた。
イルージュなりの抵抗、そして復讐だ。
「グッ……はな、せ!」
「ああっ!」
苦悶の表情を浮かべたナデクロシは腕を大きく振ってイルージュを振り払う。
「痛そうだな」
ナデクロシの腕は歯形が残って血がにじんでいる。
エイルは手を伸ばしてヒールをかける。
「ううっ!?」
急に腕に激痛が走ってナデクロシはナイフを落とした。
「くそッ……何なんだ……」
ミツナがナデクロシの目前に迫る。
飛び上がって体を回転させ、かかとでナデクロシの頭を思い切り蹴り飛ばす。
ナデクロシは壁に体を打ちつけてそのまま白目を剥いて床に倒れる。
「あ、ああっ!」
「イルージュさん! これは……ひどい……」
イルージュの方もあまり良い状態ではなかった。
振り払われた時にナイフが頬に当たって大きく切り傷ができていた。
「もう……終わりね……」
噛み付いたことには後悔していない。
しかし顔に傷を作った花嫁を誰が受け入れてくれるだろうかとイルージュは思った。
結果的にナデクロシの言う通りになってしまう。
頬が痛くて、胸が痛くて、イルージュは涙を流した。
「まだ終わりじゃ……」
「そんなことないわ! きっと綺麗には治らない! 顔に傷がある女を誰が愛してくれると言うの!」
「顔に傷があっても……」
「そんなのただの慰めよ! 私には顔しかないようなものなのよ!」
イルージュだって自身の顔が良いことは分かっている。
なのにそんな顔に傷がついてしまった。
たとえ身が綺麗だとしても傷物になった自分など愛してもらえないだろうと叫ぶ。
「お相手はそんなことであなたを見捨てるようなお方なのですか?」
「……それは」
分からないとイルージュは言葉に詰まった。
相手であるキルアンとは愛し合っていた。
最初は顔から入ったのかもしれないけれど今は心から愛している。
顔に傷がついてもキルアンなら愛してくれるかもしれない。
そんなことは思う。
「けれど……」
それでもやはり怖い。
もし顔に傷があることで嫌われたらもう立ち直れないかもしれない。
「……一つ方法が」
「イルージュ!」
「……キルアン様!? いや、来ないで!」
小屋のドアが壊されて男が一人入ってきた。
さわやかな顔をした男性だがエイルもミツナも見覚えがなかったので剣を構えて警戒する。
「君たちは……イルージュさんを救いにきた護衛のものです」
「僕はキリアン・シュダルツ。彼女の婚約者だ」
口では何とでも言える。
だがイルージュがキリアンと呼んでいたことは確かなのでエイルは剣を下ろした。
「イルージュ、どうしたんだ?」
「お願い……来ないで!」
キリアンが来たのにイルージュは喜ぶどころか背を向けたままである。
不審に思ったキリアンの顔が曇る。
「イルージュ……」
「お願いだから!」
キリアンが肩に触れるとイルージュは声を荒らげる。
「何があっても大丈夫だから……顔を見せてほしい」
「…………本当に?」
「ああ、本当だ」
「……こんなでも?」
意を決したイルージュが振り返る。
「なんということだ……」
「もう……私はあなたに相応しくない……」
イルージュの顔は血だらけになっていた。
頬が大きく裂けて痛々しい。
「ごめんなさい……こんなことになって……こんな私じゃあなたと結婚なんて」
「何を言うんだ!」
キリアンはイルージュの肩を掴む。
「イルージュさんは返してもらうよ!」
「させるか!」
投げ置いた剣までは少し遠い。
剣は諦めてナデクロシはナイフでミツナに襲いかかる。
「ふん! 外のやつを倒したというがその程度の実力か!」
ナデクロシはナイフをあまり扱わないがそれでもミツナよりも強かった。
ただの遊び人ではなく後継者となるべく努力は重ねてきていたのである。
「ゔっ!」
お返しとばかりにミツナの腹にナデクロシの蹴りが入った。
ミツナはゴロゴロと床を転がりナデクロシはミツナのことを鼻で笑う。
「さっさと殺してお楽しみタイムと……」
「やめろ!」
「やはり仲間がいたか!」
窓からエイルが飛び込んできてナデクロシに切り掛かる。
ナデクロシはナイフで剣を受け流すとエイルの懐に飛び込んでナイフを振るう。
「エイル!」
「チッ……流石に二人は辛いな」
上手くナイフを防御するエイルを助けようとミツナも戦いに加わる。
得意でもないナイフ一本でエイルとミツナの相手をすることはかなり厳しいとナデクロシは大きく舌打ちした。
「あっ!」
「こっちに来るな! こいつの命が惜しければな!」
一瞬の隙をついてナデクロシはイルージュを人質に取った。
首にナイフを突きつけてエイルとミツナを牽制する。
イルージュに手を出させるわけにいかない二人は下手に手を出すことができなくなってしまった。
しかし一方でナデクロシも動けない。
小屋の出入り口はエイルとミツナの後ろにある。
小さいナイフで油断すればすぐに攻撃を受けたりイルージュに逃げられてしまう可能性がある。
睨み合いのまま膠着状態が続く。
「あなたは……」
「あっ?」
イルージュは震えていた。
「あなただけは絶対に許さない!」
しかし震えている理由はナイフを突きつけられて恐怖しているからじゃなかった。
怒りだった。
弟であるオレイオスを殺され、こうして自分の結婚まで邪魔しようとしている。
大人しい内向的な性格のイルージュも耐えかねて怒りに震えていたのだ。
「なっ! この!」
「えっ!」
「ミツナ、今だ!」
怒りに震えるイルージュはナデクロシの腕に噛み付いた。
イルージュなりの抵抗、そして復讐だ。
「グッ……はな、せ!」
「ああっ!」
苦悶の表情を浮かべたナデクロシは腕を大きく振ってイルージュを振り払う。
「痛そうだな」
ナデクロシの腕は歯形が残って血がにじんでいる。
エイルは手を伸ばしてヒールをかける。
「ううっ!?」
急に腕に激痛が走ってナデクロシはナイフを落とした。
「くそッ……何なんだ……」
ミツナがナデクロシの目前に迫る。
飛び上がって体を回転させ、かかとでナデクロシの頭を思い切り蹴り飛ばす。
ナデクロシは壁に体を打ちつけてそのまま白目を剥いて床に倒れる。
「あ、ああっ!」
「イルージュさん! これは……ひどい……」
イルージュの方もあまり良い状態ではなかった。
振り払われた時にナイフが頬に当たって大きく切り傷ができていた。
「もう……終わりね……」
噛み付いたことには後悔していない。
しかし顔に傷を作った花嫁を誰が受け入れてくれるだろうかとイルージュは思った。
結果的にナデクロシの言う通りになってしまう。
頬が痛くて、胸が痛くて、イルージュは涙を流した。
「まだ終わりじゃ……」
「そんなことないわ! きっと綺麗には治らない! 顔に傷がある女を誰が愛してくれると言うの!」
「顔に傷があっても……」
「そんなのただの慰めよ! 私には顔しかないようなものなのよ!」
イルージュだって自身の顔が良いことは分かっている。
なのにそんな顔に傷がついてしまった。
たとえ身が綺麗だとしても傷物になった自分など愛してもらえないだろうと叫ぶ。
「お相手はそんなことであなたを見捨てるようなお方なのですか?」
「……それは」
分からないとイルージュは言葉に詰まった。
相手であるキルアンとは愛し合っていた。
最初は顔から入ったのかもしれないけれど今は心から愛している。
顔に傷がついてもキルアンなら愛してくれるかもしれない。
そんなことは思う。
「けれど……」
それでもやはり怖い。
もし顔に傷があることで嫌われたらもう立ち直れないかもしれない。
「……一つ方法が」
「イルージュ!」
「……キルアン様!? いや、来ないで!」
小屋のドアが壊されて男が一人入ってきた。
さわやかな顔をした男性だがエイルもミツナも見覚えがなかったので剣を構えて警戒する。
「君たちは……イルージュさんを救いにきた護衛のものです」
「僕はキリアン・シュダルツ。彼女の婚約者だ」
口では何とでも言える。
だがイルージュがキリアンと呼んでいたことは確かなのでエイルは剣を下ろした。
「イルージュ、どうしたんだ?」
「お願い……来ないで!」
キリアンが来たのにイルージュは喜ぶどころか背を向けたままである。
不審に思ったキリアンの顔が曇る。
「イルージュ……」
「お願いだから!」
キリアンが肩に触れるとイルージュは声を荒らげる。
「何があっても大丈夫だから……顔を見せてほしい」
「…………本当に?」
「ああ、本当だ」
「……こんなでも?」
意を決したイルージュが振り返る。
「なんということだ……」
「もう……私はあなたに相応しくない……」
イルージュの顔は血だらけになっていた。
頬が大きく裂けて痛々しい。
「ごめんなさい……こんなことになって……こんな私じゃあなたと結婚なんて」
「何を言うんだ!」
キリアンはイルージュの肩を掴む。


