「食事が来たようだ」

 メイド服の女性がカートで料理を運んできた。

「マナーは気にしなくても構いません。お好きに食べてください」

 おしゃれな肉料理にミツナはゴクリと唾を飲み込む。
 ミツナはお肉が好きである。

 エイルの目から見ても美味しそうな料理であった。
 マナーは気にしなくてもいいと言われているけれど無礼講というわけでもない。

 ミツナは最低限無礼にならないようにチラチラとエイルの所作を確認して真似しながら食べている。

「おかわりがいかがかな?」

「ぜひ! ……あっ」

「ふふふ、構いませんよ」

 料理が美味しくてミツナは飛びつくように返事をしてしまった。
 返事をした後に失礼だっただろうかとミツナは思ったけれどブラチアーノは優しく微笑んだ。

 顔には出さなくとも神迷の獣人に対して嫌悪感を抱いている人は多くいるがブラチアーノは本当にミツナに対して偏見も何もないようだとエイルは感じた。

「さて……今日君たちを招いた理由を話そう」

 恩はあれど家に招くほどではない。
 しっかりと報酬は払っているのでわざわざ招いてまでお礼の言葉を述べる物好きはいないだろう。

 なのにこうして招くのにまだ理由があるはずだとエイルは思っていた。

「先日領内で魔物の対処に困っていると報告が上がってきた。冒険者ギルドもなく冒険者もほとんどいない地域だ」

「……僕たちに魔物の討伐に行ってほしいと?」

「いや、そうではない」

 こんな話をするということは魔物を倒しに行ってほしいのだなとエイルは理解したけれど、ブラチアーノはわずかに微笑んで首を横に振った。

「すでに兵は派遣してあります。解決も時間の問題でしょう」

「では……?」

「実は娘の婚約相手なのですが隣国の者なのです。そして相手のところに行かねばならないのですが……人手が足りないのです。本来ならばもう討伐を終えて帰還し始めていてもおかしくないのですが思ったよりも時間がかかっていまして」

 魔物の討伐に不測の事態はつきものだ。
 魔物が逃げた、強かった、狡猾だったなどの理由から想定していたよりも時間がかかってしまうことも度々起こりうる。

「ドレス完成のために日程はギリギリとなっていてもう出発の時が迫っています。ちょうど隣国へ向かう護衛依頼を受けようとしていたこともお聞きしました。タチーノがボムバードを完璧に倒してみせた手腕も褒めておりました。そのお力貸してはいただけないでしょうか?」

「つまり僕たちに護衛をお願いしたいということですか?」

「その通りだ。報酬も支払うし道中の食事などもこちらで持とう。食事や会話を見ていれば君たちの人となりも悪くなさそうなことは分かる。少し考えてみてくれはしないか?」

 エイルからしてみれば渡りに船な提案だ。
 ちょうどいい護衛依頼は探していたし、無くてもどの道出発しようと考えていた。

 隣国へ行く護衛の依頼はあるならとてもありがたい。
 報酬の他に食事などを持ってくれるなら護衛依頼の中でもさらに良い依頼に入ってくる。

「私はいいと思うぞ」

 エイルが隣を見る。
 ミツナは最後の一口をモグモグとしながらエイルのことを見ていた。

 ミツナ自身もブラチアーノから嫌な感じを受けなかった。
 イルージュはあまり気に食わないけど嫌いというほどでもない。

 今の目的に合致した依頼ならば受けてもよさそうだとちゃんと話を聞いていた。

「今お答えを出すこともないのですが」

「いえ、お引き受けします」

「……分かりました。では詳細についてはディルアーから説明をさせます」

 ミツナが嫌がらないのなら引き受けない理由はない。
 もともと引き受けようと思っていた護衛依頼はなくなってしまった。

 しかしタチーノから受けたボムバードの依頼が都合の良い方向に転がったのだった。