「分かりました。では責任を持ってこちらで預からせていただきます」

「こちらの袋もらってもいいですか?」

「どうぞお持ちください」

 エイルは二枚の袋を両方とももらうと持ち帰ることにした硬貨を半分ずつ分けて袋に入れた。

「これがミツナの分」

 エイルはお金を半分入れた袋をミツナに渡した。

「あっ、うん……」

 ミツナは袋を受け取ると愛おしいものかのようにギュッと袋を抱きしめた。
 目の前でお金を平等に分けてすぐさま渡す。

 それも第三者の前で。
 あとで分けるなどと言ってお金を中抜きしたりする輩もいる。
 
 そんな人とは違っていて良いリーダーの気質を持っているとタチーノは思った。

「嬉しそうだな」

「うん、すごく嬉しい……」

 ミツナの尻尾が激しく振られている。
 これまでは騙されたようにはした金しかもらえなかったのにこんなに大きなお金をエイルはさっと分配してくれた。

 初めてではないけれど初めてまともに自分で働いてお金を稼いだような気になった。

「それで話とはなんですか?」

 お金を精算するだけならわざわざこうして会議室で行うこともない。
 受付で支払ってしまえばそれで終わりである。

「二つお話がありまして。まず一つはエイル様とミツナさまがお受けになれる予定だった商人の護衛依頼なのですが取り下げになりまして」

「本当ですか?」

「商人の方で何か問題が起きたようです。次に依頼を出す予定も分からないようで」

「まあこうしたことはありますからね」

 事情が変わって依頼を取り下げることなどよくある事である。
 特に商人の依頼は商売の都合でよく行動が変わる。

 特別にボーナスも出ることもあるので好む人もいれば予想外の出来事を嫌って商人の依頼は受けないという人もいる。
 依頼が飛んでしまっても受け入れるしかないのだ。

「直前のキャンセルでしたのでキャンセル料がいくらか出ています」

 流石に前の日に依頼取り消しでは冒険者も準備などをして待っているために多少負担しているものもある。
 前払いで受け取った金額のいくらかをキャンセル料として返還しないで冒険者ギルドが徴収する。

 直前キャンセルでも冒険者も少しは利益があるのだ。

「あまり多くはありませんがお受け取りください」

「ありがとうございます」

 タチーノは先ほどの袋よりも小さい袋をテーブルに置いた。

「……ミツナが好きに使いなよ」

「え、いいの?」

「女の子は色々身だしなみにもお金がかかるんだろ?」

「……じゃあもらう」

「ああ、受け取ってくれ」

 きっちり分けることもできるけれどこれぐらいならいいだろうとエイルはミツナに小袋も渡した。
 本当なら依頼の報酬もミツナに多く渡したいぐらいだったのだけどミツナが遠慮しそうだからやめておいたのだ。

 あまり大きくない金額なら理由をつければ受け取ってくれるだろうと思った。

「もう一つお話ししたいことは?」

 一つ目は依頼がなくなったという報告だった。
 これもわざわざ呼び出して話すような内容ではない。

「領主様がエイル様とミツナ様をご招待したいと」

「領主が?」

 予想外の話にエイルは驚いた。

「依頼を受けてこうしてボムバードを持って帰ってきてくださいました。そのお礼がしたいと」

「そこまでのことですか?」

「私にはどうにも事情は分かりかねます。ですがお断りしたいというのでしたら私の方から連絡を入れておきます。もしかしたら良くない目で見られることもあるかもしれません」

 タチーノはチラリとミツナを見た。
 神迷の獣人に対する偏見は自由に生きて色々な人と出会う冒険者よりも貴族なんかの方が根強い。

 もしかしたら招待を受けることでミツナが不快な思いをするかもとタチーノは危惧している。
 タチーノは偏見が少ない人でミツナのことを心配しているのである。

「この地の領主であるイクレイ様は悪い人ではないので大丈夫だと思いますが……」

「じゃあこの話はお断り……」

「行こう、エイル」

「ミツナ?」

 断ろう。
 エイルはそう思っていたがミツナは真逆のことを考えていた。

「いいのかい? 貴族の招待なんて大体つまらないものだよ?」

 基本的には当たり障りのない挨拶でもして、冒険者だと普段食べないような高い料理を食べながら当たり障りのない会話をして、当たり障りのない感謝の言葉を述べて解散する。
 食事がちょっと楽しみなだけであまり楽しい場ではないのがほとんどなのである。

 偉い人に招待されて楽しかったのはエイルの記憶ではデルカンぐらいだった。

「いつまでも私は私を嫌いでいたくない」

 神迷の獣人だからと何もかもを避けていてはそのうち神迷の獣人であることを誇れなくなってしまう。
 少しは変わろうと決意したのだ、たとえ不快な場になろうとも神迷の獣人として堂々としていたいと思った。

 一人なら嫌だけど一緒にエイルがいてくれるならきっと嫌でも大丈夫。
 どうせもう二度と会うことのない人なら最後に睨みつけるぐらい許されるだろうとも考えた。

「……分かった。やっぱり受けようと思います」

「分かりました。そのように伝えておきます」

「……少しぐらいまともな服買わなきゃいけないかな?」

「そう堅苦しい人でもないので小綺麗に大丈夫だと思いますよ」

「次の依頼も探さなきゃいけないしな。そろそろ失礼します」

「ええ、今回は本当にありがとうございました」

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