「くっ!」

 赤い羽が爆散し、ミツナが吹き飛ばされる。
 走り出したエイルはスライディングしながら落ちてきたミツナをなんとか受け止めた。

「大丈夫か?」

「大丈夫……」

「大丈夫じゃなさそうだな」

 小さいボムバードにしてはかなり大きな爆発だった。
 どうにかガードはしたようでミツナの腕は赤い毛のところが痛々しく焼け焦げている。

「待ってろ」

「ん……」

 エイルがミツナのことを治療する。
 傷が治っていくムズムズとした感覚は慣れないものだとミツナは思う。

 ただ治療は痛いというけれどミツナにとっては意外と心地の良いものだった。
 不思議とエイルの治療からは優しさと温かさを感じる。

 むしろもっとやってほしいぐらいである。
 ヒールは痛いなんていうけれど痛みさえなければきっとヒールは慈愛に満ちたものになっていたはずだとミツナには思えて仕方ない。

「痛みを感じないというのも問題だな……」

 エイルの腕に抱かれてミツナがポワンとなっている間にエイルは頭を悩ませていた。
 痛みを感じないということは長所でもあるが短所にもなりうる。

 ミツナの腕は爆発で痛々しい状態だったがミツナは平気な顔をしていた。
 少しの傷でもあろうものならヒールするつもりであるが、己の状態に気づくことができないというのは非常にリスクが大きい。

 どこが痛いということは的確なヒールをするためにも必要な情報だ。
 ミツナが痛みを感じないので体全体をヒールしてしまえばいいが、やはりピンポイントで治療する方が早くて魔力の消耗も少なくて済む。

 エイルがヒールしても大丈夫だという利点はあるが、痛みを感じないことでミツナが危機的な状況に陥ってしまうのではないかと不安にも思うのだ。

「…………これ治せない?」

「……ごめん」

「そっか……」

 無事に治療は終えたのだがミツナはとても悲しそうな目をしていた。
 失敗したからではない。

 確かに失敗したことも落ち込む要因ではあるのだが今落ち込んでいるのは別の理由からだった。

「腕切り落とそうかな……」

「こらこらこらこら」

 ミツナが落ち込んでいるのは腕の毛が燃えてチリチリになってしまったからだった。
 エイルの治療によって怪我は治すことができる。

 しかしすでに燃えてしまった毛は言うなれば死んでいるようなものでヒールしても再生しない。
 腕ごと生やせば手や腕を覆う毛も再生するだろうが流石に毛のためにそこまですることはさせられない。

 ミツナとしては肘から先を覆う赤い毛は神迷の獣人としての証でありつつも割とチャームポイントだとも思っていたりしていた。
 腕の毛は結構目立つのでチリチリになってミツナはしょんぼりしてしまっている。

「どんなでもミツナはミツナだよ」

 どうにか慰めたい。
 エイルはミツナの手を取る。

 ミツナの毛はふわふわとして柔らかく手触りがいい。
 正直触っていたいぐらいの気持ちよさがあるとエイルは思う。

 ミツナが嫌がるだろうから普段は触れないようにしているが、エイルとしては意外とミツナのケモな部分は好きだった。
 チリチリになって残念に思うのはミツナだけでもないのだ。

 チリチリになったところをエイルが優しく撫でてやるとミツナの顔が赤くなる。

「きっとすぐに生えてくるさ」

「……う、うん。また、私失敗しちゃった?」

 ミツナからしてみればうまく攻撃したはずなのにという思いはあった。

「あれはまあ……俺が悪いんだ」

 ミツナとボムバードが重なってしまった。
 そのためにヒールが届かずボムバードが爆発してしまったのである。

「あっ、それは私が悪いかな?」

「いや俺が悪いんだ」

 外から見ていたならミツナの動きもある程度予想できたはずである。
 動かずにただ様子を眺めるなんて怠慢さがミスを呼び込んだのだ。

 ミツナが攻撃を決めるタイミングを見計らってエイルも動いてボムバードにヒールの狙いを定めることもできたはずなのである。

「次は成功させよう」

 生きていれば次がある。
 何度失敗したって構わない。

 仮に依頼そのものを失敗したっていいのだ。
 今回はミツナがボムバードに攻撃することに成功した。

 ならば次もきっと成功する。

「うん……次も攻撃してみせるから!」

「次こそはちゃんとヒールしてみせるよ」

「今度は失敗しないでよ?」

「ふっ、分かってるさ」

 少しはミツナの機嫌も戻ったようでエイルは安心した。
 失敗してもいい。

 だけど今度はうまくいきそうな気がした。