「ボムバード……リトルフェニックスと呼ばれるほどの赤い綺麗な羽を持っていてボムバードの羽で作られた服飾品や装飾品の価値は高い。羽をむしった後のボムバードは串に刺して丸焼きにすると美味い……」

 エイルとミツナはタチーノがまとめてくれたボムバードの情報を改めて確認しながらボムバードの生息地である森に向かっていた。
 ボムバードは攻撃されてダメージを負うと自ら自爆してしまうという奇妙な性質を持っている。

 自爆することによって派手に羽を撒き散らして狙うものの目をくらまし、爆発音で仲間たちに危険を知らせて逃がすのだと一般には言われている。
 実際一度爆発してしまうと周りにいるボムバードも逃げてしまって捕獲は難しくなるらしい。

「面倒な魔物だな」

 ミツナはエイルが読み上げたボムバードの生態を聞いてため息をついた。

「自爆するなんて私には分からない」

 面倒だと思うし、同時になぜ自爆などするのかと疑問にも思う。
 仲間への献身という意味では理解できる。

 しかしただの目くらましとなって自爆することは理解できなかった。

「自爆するなら敵に突っ込んでやる……」

 ミツナだったらただ自爆なんてしない。
 仲間のため、エイルのためになるのなら最後まで戦う。

 エイルを逃がすためなら最後まで戦い抜いて、それでもどうしようもないのなら敵も巻き込んで自爆してやると考えた。

「……そんなことさせないよ」

「エイル? ……何で怒ってるの?」

 エイルは少し険しい顔をしてミツナのことを見ていた。

「自爆なんてダメだ」

「でもどうしようもなかったら……」

「最後まで抵抗するさ。でも俺は君を犠牲にして生き残るつもりはないよ」

 エイルが怒っているのはミツナが自身を犠牲にしようという考えを持っていることだった。
 冒険者として生きている以上必ずしもみんなが生きて帰れるという保証はない。

 そんなことエイルも理解しているが、いざという時にミツナが犠牲になればいいなんてことは思いたくなかった。
 危機状況になるのなら最後まで抵抗する。

 死ぬ瞬間までエイルは諦めるつもりはない。
 だから自分を犠牲にしてでもと口にしたミツナに対して少しだけ怒っているのだ。

「少なくとも僕が生きている間は君を死なせはしない」

「エイル……」

 他の人なら難しいかもしれないがミツナは痛み無効のスキルを持っている。
 エイルの魔力があって死なない限りミツナは死ぬことがないと断言してもいい。

 あまりボロボロにはなってほしくないけどたとえボロボロになったとしても諦めないで戦うというのがエイルの考えである。

「そんなことになるかは分からないけれどどんな状況でも諦めず乗り越えよう。諦めない限りはどこかに活路が見出せるかもしれないから」

 かつてはミッドエルドのみんなとならそうできると思っていた。
 しかし結局仲間たちからは見捨てられた。

 でもそのおかげでミツナと出会うことができた。
 ミツナが仲間でいてくれるならエイルから見捨てることはない。

 犠牲にすることも一人逃げることしない。
 戦う時も逃げる時も共にある。

「ん……分かった。私もそうする」

 ミツナはエイルに真剣な目で見つめられて顔を赤くする。
 きっと囮になって逃げろと言っても逃げないことは本当なのだろうなとミツナも感じた。

 なら一緒に抵抗した方がよさそうだ。
 相変わらず変な人だとミツナは思う。

 いざという時には自分が一番大切なはずなのにエイルは仲間の無事を一番に考えている。
 そんなに献身的な人、世の中にまずいない。

 今の仲間はミツナだけなのでエイルの思いはミツナにだけ向けられている。
 そのことはすごく嬉しい。

 ただ嬉しいのだけどどうしてエイルがそんなにも他人のことを気にかけるのか、そのことがミツナは少し気になった。

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「さて、ここだな」

 二人で身軽だし少し速めに移動した。
 一日かかる距離だと聞いていたけど朝早めに出たのでまだ日が残っているうちにたどり着くことができた。

「軽く様子を見ながら偵察しよう」

 ボムバードがいるのは鬱蒼としげる大きな森の中でどんな感じの場所なのか事前に把握しておく方が動きやすくなる。
 今からボムバードを追いかけ回すつもりはなくて軽く偵察から始める。

 木々が多いためか足元はやや悪い。
 木の根っこなんかがところどころ露出していて足元を疎かにすると足を引っ掛けてしまう可能性がある。

 木の間隔もやや狭めで動き回るのにあまり適した場所ではない。
 小柄で素早いと言われているボムバードにとってかなり優位な場所といえる。

「よいしょ」

 周りの環境を確かめながらついでに野営の時に使う枝も拾っていく。

「……休む時には森を出た方がいいな」

 日の光が通りにくく薄暗さがある。
 木が多くて隠れる場所が多くて魔物の奇襲も警戒しなければならない。

 森の中で野営するのはリスクが大きいとエイルは判断した。
 だいぶ日が落ちてきて暗くなってきたのでエイルとミツナは森の木々が少なくなるところまで移動して野営することにした。