「無」能力だけど有能みたいです〜無能転移者のドタバタ冒険記〜②《激闘の章》

 ここは竜人の里ドドリギアの船着場。
 美鈴たちが船着場を出ようとすると、三名の竜人に静止させられた。

 「お前たちは何者だ? それになんで竜人を連れて歩いている!」

 赤紫で三つ編みをした男性に、そう問いかけられる。

 「……もしかしてゴライドルなのか?」
 「なんでオレの名前を知ってるんだ?」

 そう言いゴライドルは、ジーッとドラバルトをみた。

 ゴライドル・バルデン、年齢不詳。因みにドラバルトの幼馴染である。

 そう問われドラバルトは、名乗った。

 「俺だよ! ドラバルトだ」

 それを聞きゴライドルは、疑いの眼差しをドラバルトに向ける。

 「おい、ふざけるなよ! ドラバルトは、何千年も前に死んでるんだ」
 「そのことについては、事情があってな……」

 そう言いドラバルトは、今まで何があったのか説明した。だが納得してもらえない。

 「もし本当のドラバルトなら……」
 「なあ、ゴライドル。嘘を言っているようにもみえんのだが」

 銀色の長い髪の男性はそう言いドラバルトを見据える。

 この男性はセルジギス・アバル、年齢不詳。まぁドラバルトよりは若いのだろう。

 そう言われゴライドルは悩んだ。
 そう本当はドラバルトをみた瞬間に、もしかしたらと思ったからだ。
 だが死体はみていないにしろ、死んだ者が生き返る訳もない。ここに居る者は、似ているだけで別人だ。
 そう言い聞かせていたから余計にである。

 「んー……なぁゴライドル。それならさぁ、闘技大会で証明したらいいんじゃないのか」

 青で短い髪の男性はそう提案する。

 この青い髪の男性はガセドラグ・ドベラ、年齢不詳。この三人の中では若い方だ。

 そう言われゴライドルは考える。

 「確かにその方が、本物かどうか分かる。本当にドラバルトなら、オレたちに余裕で勝てるからな。だが里長に聞かないと無理だ」
 「ゴライドル……どのみち里長の所に、この者たちを連れて行かないと」
 「確かにセルジギスの言う通りだ。それから判断してもいいか」

 そう言いゴライドルは、美鈴たちを順番にみた。

 「……あくまでも、本物だと理解してくれんのだな。まあいい……それならば、大会が受理されたら……それを証明するまで」

 ドラバルトはそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべる。それと同時に、ゴライドル達三人を凍てつくような眼差しでみた。

 「まあいい……全ての判断は里長に任せる。……ついてこい!」

 そう言われドラバルトは一瞬ムカついたが、なんとか堪えゴライドル達のあとを追う。
 その様子をみていた美鈴とファルスとミィレインは、複雑な気持ちであとを追いかける。
 そして美鈴たちは、里長の屋敷に向かったのだった。
 ここは里長の屋敷。
 里長の屋敷は、ドドリギアの里の北東にある高く聳える石山の上に建っている。
 あれから美鈴たちは、この屋敷に案内された。
 因みにここまでは、空から来たのである。そう美鈴はセルジギスで、ファルスがガゼドラグに体を掴まれ運ばれた。
 ドラバルトとミィレインは、空を飛べるため自分の力でここにくる。
 そして美鈴は里長の屋敷に降りたった直後、吐きそうになった。だが、なんとか堪える。

 現在、美鈴たちは里長の仕事部屋で話をしていた。
 勿論ここには、ゴライドルとセルジギスとガゼドラグもいる。

 「……理由は分かった。そうか……だが、それを真に信用することもできぬ」

 そう里長は言い、真剣な表情でドラバルトを見据えた。

 この男性はマルバルト・バッセル、年齢不詳だが遥かにドラバルトよりも上である。そうドラバルトの父親なのだ。
 髪の色は似ているが、綺麗に三つ編みを一つに結っている。どちらかと云うと、優しい顔だちだ。

 そう言われドラバルトは、複雑な心境に陥る。

 「里長、これは提案なのですが……闘技大会を開いて頂けませんか?」
 「ゴライドル……うむ、確かにその方が良いかもしれん。だがその前に……このドラバルトと名乗る者と二人っきりで話をしたい」

 それを聞きここに居る者たちは不思議に思った。

 「なぜでしょうか? それに二人っきりになるのは危険かと」
 「セルシギス、心配ない。そこまで、俺は弱くないからな」

 そう言われセルシギスは、それ以上言えば怒り出すと思い渋々納得する。

 「では、他の者たちをどうしたら?」

 そうガゼドラグが問うとマルバルトは、美鈴たちを別室に案内すると言った。
 その後マルバルトは、使用人に言い美鈴たちを客室に案内させる。そしてゴライドルとセルシギスとガゼドラグには、屋敷の外で待てと指示をだした。
 その時美鈴は、ドラバルトのことが心配になり後ろ髪をひかれながら部屋をでる。
 他の者が居なくなったことを確認するとマルバルトは、目を潤ませながらドラバルトをみた。

 「ドラバルト……よく戻ってきた」
 「父上……まさか、分かっていたのか?」

 そう親が子供を見間違うまでもなく、この部屋に入って来た時から気づいていたのだ。

 「フッ、子供のことが分からぬ親が居ると思うのか?」
 「確かに……だが、なんであんなことを?」
 「建て前だ。それにお前も、その方がいいと思ったからな」

 そう言われドラバルトは、どういう事だと考える。

 「んー……言っていることが分からない」
 「相変わらず戦いのこと以外は、駄目なようだ。まあそのせいでお前は、この里を出て自分の力を大いに振るうことのできる場所に居たのだろうからな」
 「はあ……だが、今はその居場所もなくなった」

 ドラバルトはそう言い、キッと床の一点を睨みみた。

 「ああ……だがまさか、お前が珍獣に姿を変えられた。そのうえ、洞窟に封印されていたとはな」

 そう言いマルバルトは、腹を抱え笑いだす。

 「笑わないでください! あんな生き物に変えられ、何度も死んだ方がマシだと思ったことか」
 「そうか……だが死ねなかったか。まあ、そのお陰でお前はここに戻ってくることができた」
 「はい、一生ここには戻れないと思っていた。それもこれも、ミスズがあの洞窟に転送されてこなければ叶わぬことだったのだ」

 それを聞きマルバルトは、考えながらドラバルトを見据える。

 「ミスズか……先程のヒュウーマンの女だな。いや、お前の話では女神に召喚された勇者だったか」
 「ああ、さっきも言ったが……ミスズは女神に殺されかけている」
 「うむ……だが、それを運よく助けられた。余程、強運の持ち主のようだな」

 そう言われドラバルトは頷く。

 「俺は……ミスズに賭けることにした。それに恩もある」
 「それだけか? まあお前のことだ、自分の気持ちに気づいていないと思うがな」
 「何が言いたいのですか?」

 そうドラバルトが聞くとマルバルトは、ハァーっと溜息をついた。

 「まあそのことは、自ずと分かるようになるだろう。それよりも、これからどうするつもりだ?」
 「父上には俺だという事が理解してもらえた。だがそうだとしても……」
 「そうだな。里の者やこの里で商売している者に、本物だと理解してもらう必要があるだろう。そうなるとゴライドル達が言うように闘技大会を開いた方がいい」

 それを聞きドラバルトは、コクッと頷く。
 そしてその後もドラバルトとマルバルトは、色々と話をしていたのだった。
 ここは里長マルバルトの屋敷。そして美鈴たちが案内された部屋だ。
 美鈴たちは現在、各自好きな所に座り待機している。
 椅子に座りファルスは、テーブルに寄りかかって考えごとをしていた。
 美鈴はソファに座り色々なことを考えている。

(ドラバルト大丈夫かな? んー……そういえばマルバルトさんの姓って、ドラバルトと同じだった。って、まさか家族か親戚なの。
 そうだとしたら……さっきの態度はどういう事かな? まるで他人のように振舞ってたし)

 そう思考を巡らせるも、美鈴は分からなくなり悩むのをやめた。

 一方ファルスは、不満そうな顔をしている。

(あれから一ヶ月か……どうも空気がオレには合わんな。なんとか体の方は、環境に合わせて調整している。だが、やはり熱が足りん)

 余程、熱い環境の方が好きなようだ。

(うむ、ここまでミスズ達と旅をしてきた。その間、色々な大陸に立ち寄ってきたが……なぜスイクラムはこんなに種族を増やしたのだ?
 こんなに種族がいたら管理するだけでも大変なはず……それなのに何を考えている。それに以前は魔王とか云う悪の存在がいたらしいしな)

 そうこう思考を巡らせていた。

(今は魔王は居ない、しかしまた治安が悪くなれば……復活するかもしれぬ。まあこれは、ここまで旅をして仕入れた情報をもとに推測したものだけどな。
 そうだとしても、これを阻止するすべも考えておく必要がある。ハァー、なんでオレがスイクラムの尻拭いをしなければならない)

 そう考えると頭を抱える。

 片やミィレインは、美鈴の近くのソファの肘掛の上にいた。

(退屈ニャのよねぇ。ここまで何もニャかったのは良かったけど……アタシは、なんのためにここにいるのかニャあ~)

 そう思いながら、ボーッとしている。

「ねぇ、ミィレイン。そういえばスイクラムって、この世界の女神だよね」
「そうよ。だけど、今は罰を受けてこの世界に居ないわ」
「そうか……そうなると、この世界に神が居ないんだね?」

 それを聞きミィレインは頷いた。

「だけどそのことについては、この前ミスズだけに教えたわよね」
「うん、そうだね。ファルスのことも……」

 そうミィレインは美鈴に、ファルスが他世界の神の使いだと嘘を交え教えている。

「そのことについては、アタシの意識に話しかけてほしいのよね」
「あ、そうだった。そうだね……とりあえず確認したかっただけだから、これからはそうする」
「その時は言ってね、いつもミスズの傍に居るんだから」

 そう言われ美鈴は、コクッと頷く。

「それはそうと、ドラバルト遅いね」
「確かに遅いわね。何もニャければいいけど」
「いくらなんでも、馬鹿な真似はしないだろう」

 ファルスはそう言いながら美鈴の近くまできた。

「それならいいんだけど」

 そう言い美鈴は、ファルスとミィレインをみる。
 そしてその後も美鈴たちは、ドラバルトがくるまで話をしていたのだった。
 ここはマルバルトの屋敷。そして、美鈴たちのために用意された部屋である。
 美鈴とミィレインとファルスは、ドラバルトがくるまで話をしていた。

 「本当に、遅い……どうしたんだろう」
 「確かにな。話すことがそんなにあるのか?」
 「……もしかしてだけど。マルバルトとドラバルトって親子ニャのかも」

 そうミィレインに言われ美鈴とファルスは首を傾げる。

 「その根拠はあるのか?」
 「うん、アタシは物や人を見分けるのが得意ニャの。それで、さっきマルバルトをみた時にドラバルトと重ニャったのよ」
 「重なったってどういう事?」

 美鈴は不思議に思いそう問いかけた。

 「んー……どういう事って聞かれても、説明が難しいのよねぇ。とにかく、みた対象物がどういうものかを見分けられる感じかニャぁ」
 「そうなのかぁ。それなら色々なものをを見分けられるね」
 「だけど全部じゃニャいのよね。分からない時もあるから」

 そう言いミィレインは、美鈴とファルスをみる。

 「なるほど……だが、それがあれば何かあった時に役に立つ」
 「そうだね……ファルスの言う通り、その時はミィレインにお願いするかな」
 「まぁ別にお願いされても、構わニャいわよ」

 それを聞き美鈴は、ニコリと微笑んだ。
 するとノックされ扉が開いた。そこから使用人の女性が入って来て美鈴たちのそばまでくる。

 「旦那様がお呼びですので」

 それを聞き美鈴たちは頷いた。
 その後、美鈴たちは使用人の案内でマルバルトの仕事部屋に向かう。

 ✶✲✶✲✶✲

 ここはマルバルトの仕事部屋。
 美鈴とミィレインとファルスは、使用人の案内でここに来ていた。
 そしてマルバルトとドラバルトと共に話をしている。
 ドラバルトとマルバルトは、親子であることを美鈴たちに明かした。

 「じゃあ、ウチ達がここに来た時から気づいてたんですね」

 そう美鈴に聞かれマルバルトは、コクリと頷く。

 「ああ、だがゴライドル達が居たから分かっていても口に出せなかったのだ」
 「そうなのかぁ。なんか色々と大変みたいですね」
 「うむ、それはそうと。闘技大会なのだが、開催を許可する。それで、この中ではドラバルト以外に誰が出る?」

 そう問われ美鈴は首を横に振る。

 「ウチはいいかなぁ……こういうの苦手だし」
 「そうか、それなら仕方ないな。それで……確かファルスだったか、どうする?」

 そうマルバルトに問われファルスは首を傾げた。

 「聞きたいのだが、その闘技大会とはなんだ?」
 「はて? 冒険者なら知っていると思ったが、そういう事には無縁の場所にいたようだな」
 「はあ……まあ、そうだな。大会と云うもの自体しらない」

 それを聞きマルバルトは、ファルスに詳しく説明する。

 「……なるほど、それは面白そうだ。是非参加したい!」
 「うむ、数は多い方がいいからな。あとは里中に知らせなければならん。それと開催は、三日後にしようと思うが問題ないか?」
 「父上、俺は問題ない」

 そう言いドラバルトは、ニヤリと笑みを浮かべた。
 ファルスも「大丈夫だ」と言い、やる気満々である。
 そしてその後、美鈴たちは闘技大会のルール等を聞いていたのだった。
 ここはスイラジュンムにあるカッカラ島。ここはネツオン大陸よりも南に位置する島だ。
 この島はリゾート地のようになっている。そうここの住人は殆ど商売人や冒険者とか、ただ遊びに来ている者しかいないのだ。
 因みにこの島には、ダンジョンがあるため冒険者ギルドも存在していた。
 そしてこの島の宿屋には、エリュード・グリフェと擬人化している使い魔のヴァウロイとゴルイド・バルデラとライル・ダヴィスがいる。
 エリュード達は、飲み物をのみながら話をしていた。

 「ネツオン大陸に行ったが、ミスズは既に居なかった」

 そう言いエリュードは、遠くをみつめる。

 「そうなのニャ。洞窟の封印が解けてたし……」
 「そうね。でも、誰があの洞窟の封印を解いたのかしら」
 「ライルちゃんの言う通りだ。それにミスズちゃんは、どこに行ったんだろうな」

 そうゴルイドが言うとエリュードは俯いた。

 「本当にどこに行ったんだ? ……そういえばヴァウロイ、この前……ドラギドラスのことをチラッと話そうとしてやめたよな?」
 「エリュード……そんなこと言ったかなぁ……ハハハハハ……」
 「なんで誤魔化すんだ。そんなに隠さなきゃいけないことなのか?」

 そうエリュードに問われヴァウロイは、下手に話せないことなので困ってしまう。

 「えーっと……ごめん、今は無理ニャ。ご主人様の了解が、まだ出てないのニャ」
 「なるほど、魔族と関係があるってことだな。そうなると、ミスズは……そのドラギドラスに囚われている可能性があるって訳か」
 「分からないニャ。それにドラギドラスの姿で、あの洞窟を出るとも思えないのニャ」

 それを聞きエリュードとゴルイドとライルは、不思議に思い首を傾げる。

 「それって、どういう事なの? まるで姿を変えられて、それが嫌で洞窟に引きこもったみたいじゃない」
 「うん、そんなところニャ。それに以前よりも力を半減されたから余計なのニャ」
 「……なんか凄く嫌な感じだ。もしもそのドラギドラスが、元の姿に戻ったらどうなる?」
 「もしそうなら、大変なのニャ。だから今、ご主人様に確認してもらってるんだニャ」

 そう言いヴァウロイは、エリュードをみる。

 「そういう事か。でも、まだその回答が来ていない」
 「うん、心配だけど……それ以外にも気になることがあるのニャ」
 「気になること?」

 そうエリュードは問い返した。

 「これはご主人様にも話したことなのニャ。あの洞窟で争ったあとがあったんだけど、どちらかといえば強い者同士のように思えたんだニャ」
 「それじゃ……そのドラギドラス以外にも、何者かが居たってことか?」
 「そうなるニャ。だから、それも含めて調べてもらっているのニャ」

 それを聞き三人は、頷き納得する。

 「じゃあ、返答を待つしかないな」
 「そうね……なんか、魔族の手を借りるのは嫌だけど」
 「ああ、でもそれしか手がねぇしな」

 そうゴルイドが言うとエリュードとライルとヴァウロイは頷いた。

 「さて、これからどうする?」
 「エリュード、いつまでもここに居る訳にはいかないわ」
 「ライルちゃんの言う通りだ。いい加減、ここを発った方がいい」

 そうゴルイドに言われエリュードは苦笑する。

 「そうだな……どうも、ここは居心地がよくて動けなくなった」
 「その気持ち、凄く分かるわ」
 「そうか? 退屈だと思うんだが」

 そう言いゴルイドは首を傾げた。
 それからエリュード達は、少し話をしたあと各自の部屋に行き旅支度を済ませる。
 そしてその後エリュード達は、自分たちの船に乗り美鈴を探すため旅立ったのだった。
 ここはスイラジュンムの、遥か北東部に位置する孤島。辺りは、人っ子一人いる気配もないような辺境の地。
 その孤島の北西部に位置する険しい山々の山頂付近には、西洋の城を思わせるこの地に似つかわしくないような建物が立っている。
 その建物内は広く迷ってしまうほどだ。そうここは、ヴァンディロードの屋敷である。

 現在ヴァンディロードは、自室のソファに座り葡萄酒のような色と味のするグルン酒を飲みながら考えていた。

 (ドラギドラス……いや、ドラバルト様があの洞窟から居なくなった。それもミスズとか云う異世界から召喚された勇者と共に、忽然と消息が途絶える。
 気になり他の使い魔にマグドラスの所へ向かわせたが……。
 ミスズがドラバルト様にかけられた術を解いたうえに、洞窟の封印をも解除するとは……。
 それもドラバルト様は、術を解く際にその影響でミスズのしもべとなっている。うむ、そういえばミスズはスイクラムを恨んでいたな。これは……面白い)

 そう考えるとグルン酒を口に含みその余韻に浸っている。

 (……そうだな。ドラバルト様は、確か竜人の里に向かったと言っていた。そうなると、何もなければ既に着いているはず。このことを一応、ヴァウロイに連絡しておくか)

 そう思い左腕にはめている腕輪の黒い石に人差し指と中指を添え小さく魔法陣を描いた。その後、ヴァウロイへと繋いだ。
 そしてヴァンディロードは、数分間ヴァウロイの返答を待つが何も返ってこない。

 「……何をやっておるのだ?」

 そう言い少しの間、ヴァウロイを待っていた。


 ――場所は、エリュード達の船の中に移る――

 ここは船室。エリュード達は、ここで話をしていた。
 因みに船の操縦は、専属を二人雇っていて交代で行っている。

 現在ヴァウロイは、エリュード達と話している途中で腕輪が発光したため慌てていた。

 「あーえっと……ご主人様から連絡なのニャ。だから別の所で話してくるニャ」
 「ヴァウロイ、なんでここじゃ駄目なんだ?」

 そう言いエリュードは、ヴァウロイを凝視する。

 「……前も言ったけど、まだ許可をもらっていないから無理なのニャ」
 「なるほど……いつ許可がもらえる?」
 「そんなの分からないのニャ」

 ヴァウロイはそう言い船室を出て別の所に向かった。

 「だけど、本当にヴァウロイのご主人様って誰なのかしら」
 「そうだな……魔族やそれに加担していたヤツが今、残っているっていうと」
 「エリュード……オレの勘だが、ヴァンディロードあたりじゃねぇのか」

 ――鋭い……。

 「んー……それはあり得るな。ヴァンディロードは警戒心が強い。そのため力があっても、自ら表舞台にでないヤツだ。まあ頭がいいんだろうがな」
 「そうね。でも、そうとも限らないわ。他にも、魔族以外に魔王を崇拝している者はいるから」
 「ああ、そうだな。とにかく用心はしておこう。ヤツラにいいように利用されないように」

 そうエリュードが言うとゴルイドとライルは、コクッと頷く。
 そしてその後もエリュード達は、ヴァウロイが戻ってくるまで話をしていた。
 ここは船内の部屋ではあるが、エリュード達の居る所と違う船室である。
 あれからヴァウロイはここにくるなり、急ぎヴァンディロードとの通信を繋いだ。

 「遅くなり、申し訳ありません」
 「ヴァウロイ、何かあったのか?」
 「いえ、何もありませんが……ただエリュード達と一緒でしたので他の部屋に移動していました」

 そう言いヴァウロイは、軽く頭を下げる。

 「そうか……まあいい。それはそうと、ドラバルト様の行方が分かった」
 「それは本当なのですか?」
 「ああ、使い魔のキャルネにマグドラスの所まで行かせた」

 それを聞きヴァウロイは小首を傾げた。

 「マグドラスと、どういう関係があるのですか?」
 「ヴァウロイ、ドラバルト様の居た洞窟をみた際に……何者かと戦った形跡があったと言ったな?」
 「はい、洞窟内がかなり崩れていましたので」

 そう言うもヴァウロイは、ヴァンディロードの言いたいことが理解できず困惑している。

 「だから、もしかしたらマグドラスが知っているのではと思ったのだ」
 「あーなるほど……そういう事なのですね。それでドラバルト様は、どこに居られるのですか?」
 「マグドラスの話では、竜人の里ドドリギアにミスズと向かったらしい」

 それを聞きヴァウロイは、ホッとした。

 「じゃあ、ドドリギアに向かえばいいのですね」
 「ああ、そうなるな。だが、気になることをマグドラスが言っていたらしい」
 「それは……いったい?」

 そう聞かれヴァンディロードは、そのことについて話し始める。

 「……そうなるとドラバルト様は、ミスズのおかげでドラギドラスから元の姿に戻った。だけどその影響で、ミスズのしもべになっている」
 「そういう事だ。それともう一つ……ミスズを助けた者がいる」
 「それは、いったい誰なのですか?」

 そう言いヴァウロイは首を傾げる。

 「ファルスとか云うヒュウーマンらしい。だが、マグドラスの話では神の臭いがしたと」
 「どういう事でしょうか? その者がもし女神スイクラムと関わりのある者であれば」
 「ああ、なぜミスズを助けたのか気になる。それとミスズに守護精霊がついた」

 それを聞きヴァウロイは驚いた。

 「それは本当ですか?」
 「うむ、偶々レベルが上がり守護精霊が出現したようだ。まぁそのおかげで、ドラバルト様は元の姿に戻られたのだがな」
 「そうですか。じゃあ現在、ミスズのそばにはドラバルト様以外……そのファルスと守護精霊が居る訳ですね」

 そう言いヴァウロイは真剣な表情になる。

 「そうなるな……それでだ。そのファルスが何者かを探れ。コッチでも調べはするが、何か引っかかる。それに最近、スイクラムにみられていないような変な感じがするのでな」
 「そういえば……確かに、異常じゃないかと思うほどに暑い。ネツオン大陸から出てきたはずなのに……それに、水も減っているような気がします」
 「なるほど……それはおかしい、この世界は水が豊富なはずだ」

 そう言いヴァンディロードは考えた。

 「そうだな……そのことについても調べた方がいいか」
 「はい、承知いたしました」

 それを聞きヴァンディロードは、更にヴァウロイに他の指示もだす。
 そしてその後ヴァウロイは、ヴァンディロードとの通信を切りエリュード達の所に戻っていった。
 ここはエリュード達の居る船室。
 あれからヴァウロイは、ここに来ていた。

 そして現在ヴァウロイは、エリュード達と話をしている。そう話せることだけをエリュード達に伝えたのだ。

 「なるほど、ミスズは竜人の里に向かったのか。それも既に着いている可能性が高い」

 そう言いながらエリュードは、ピクピクと顔を引きつらせている。

 「……それだけじゃない。かつて魔王テルマの右腕と云われた四帝の一人、ドラバルトが生きていた。それも今は、ミスズと一緒にいる」
 「そうだけど、心配いらないのニャ」
 「その根拠はなんだ? 相手は凶悪な竜人だぞ!」

 それを聞きヴァウロイは首を横に振った。

 「ドラバルト様は、見た目と発言とか怖いけどニャ。他の四帝よりは真面なのニャ」
 「ほう……なるほど、だが会ってみないことには信用できねえな」
 「そうね……でも、アタシが昔に聞いた話だけど。四帝の中でドラバルトは、最強だったにも拘らず……悪い噂を聞いてないのよね」

 そう言いながらライルは思い返している。

 「確かに、ライルちゃんの言う通りだ。死んだと噂が流れたあとだが、それを悲しむ者たちもいたらしい」
 「ゴルイド……それは魔族やソイツラに加担してた者たちだろ?」
 「いいんや、違う……これは聞いた話だ。それ以外の者の中には、ドラバルトに助けられたと言ってるヤツもいたみてぇだな」

 それを聞きエリュードは、難しい顔をした。

 「どうなってる? じゃあ、なんで魔王なんかに加担したんだ」
 「簡単ニャ。ドラバルト様は、情に厚く情け深いのと単純だからなのニャ」
 「単純……ってことは、馬鹿ってことか?」

 そう言いエリュードは、ヴァウロイに視線を向ける。

 「馬鹿……って、まあ……それをいうなら戦闘馬鹿かもしれないニャ」
 「なるほど……そのせいもあって魔王側についたってことだな」
 「うん、そんなところなのニャ」

 ヴァウロイはそう言うも冷や汗をかいていた。そうドラバルトの耳に入ったら、ただじゃすまないからである。

 「あ、それとミスズと一緒にいるのはドラバルト様だけじゃないニャ」
 「他にもいるって……どういう事だ?」

 そう言いエリュードは首を傾げた。
 そう問われヴァウロイは、ファルスとミィレインのことを話す。

 「それじゃあ、ミスズは守護精霊がついたのね。それなら少しは安心かもしれない」
 「ああ、守護精霊は女神側だからな。ただもう一人の方だ。ファルス……いったい何者なんだ?」
 「ボクも知らないのニャ。ただ聞いた話じゃ、神と何か関係する者かもって言ってたニャ」

 それを聞きエリュードは思考を巡らせる。

 「……女神とか。もしそうなら、今のところミスズは大丈夫かもな」
 「ええ、でも確証はないけどね」
 「それでも……ミスズちゃんに危害を加える要素がすくねぇならいいんじゃねぇのか」

 そうゴルイドが言うとエリュードとライルとヴァウロイは頷いた。

 「とりあえずは、ミスズがドドリギアに滞在している間に辿り着かないとな」

 そう言いエリュードは遠くをみつめる。
 そしてその後もエリュード達は話をしていたのだった。
 ここは竜人の里ドドリギア。その里の西側には、蔵が数軒建っている。そして奥の方には、一軒の古びた家が建っていた。
 その建物内には、五名の男女がいる。だが黒ずくめの服と覆面をしていた。

 「……ドラバルトが生きていて、この里に戻って来たって噂は本当なのかしら」
 「それについてなのですが、まだ本人か確証を得ておりません」
 「そのため、闘技大会を久々やるらしいわよ」
 「ああ……そうらしいな。ワシも出たかったが今はやることがある」
 「確かに……今は、女神崇拝者をどうにかせんとな」

 どうやらこの五人は魔王崇拝者のようである。
 その後も五人は話をしていた。


 ――場所は、里長の屋敷に移る――

 ここは屋敷内の美鈴のために用意された部屋。なぜか隣はドラバルトの部屋だ。……まあ親心なのだろうが、余計なお世話だと思う。
 美鈴は荷物の整理をしていた。そうしばらくここに滞在するため、タンスや籠に持ち物を入れていたのである。
 その様子をミィレインは、フワフワ浮ながらみていた。

 「結構、異空間に物が入ってたなぁ。ここにくるまでの間に、色々な物を買ったから……って自業自得かぁ……ハァー……」

 そう言い美鈴は苦笑する。そう必要ない物まで買っていたのだ。

 (そういえば、今頃エリュード達はどうしてるのかなぁ。連絡したいけど……その手段もないし)

 そう思いながら窓の方へ向かった。
 窓までくると美鈴は外の景色を眺める。

 「ここは高いせいか、眺めが良すぎて遠くまでみえる。エリュードはこの世界のどこかにいるんだよなぁ」

 そう言い美鈴は、俯き涙ぐんでいた。


 ――場所は変わり、ドラバルトの部屋――

 その頃ドラバルトは、ベッドに横になり考えごとをしている。

 (父上はなんで急遽ダブルベッドを俺に? いくらなんでも一人じゃ広すぎるんだが。
 それに……どうして隣の部屋が美鈴なのだ? んー……それも隣には扉を開ければすぐに行ける。これでは、ミスズを…………いや……ハハハハハ……)

 何を馬鹿なことを考えてるんだと、ドラバルトは妄想を掻き消した。

 (そうだな。俺はミスズのしもべとなった……護る義務がある。そうなれば、近くにいた方がいい……そういう事だ)

 そう解釈することにする。

 (さて、三日後か……久々に腕がなる。だが……少し体を動かしてくるか? 大会までには、体をつくっておいた方がよさそうだ)

 自分の体をみながらそう思った。
 その後ドラバルトは部屋を出ると、屋敷内にある道場のような場所に向かう。


 ――場所は、里内にある広場に移る――

 この広場には、カップルが多く来ていた。
 それを羨ましそうにゴライドルは、木の椅子に座りみている。

 (今日はいつもより、カップるが多い気がする。ハァー……まあそんなことはいいか。
 それよりも……里長のあの様子だと、やっぱり本物のドラバルトだよな。
 でもそれを証明するために、闘技大会を三日後に開く……まぁ俺たちが言ったんだけどな。恐らく余裕でドラバルトが勝つだろう。
 ……それならそれでいい。だが、あのミスズとか云うヒューマン……いったい何者だ? 守護精霊を連れているってことは女神と関係があるのか……)

 そうこう考えていた。

 「まぁ大会後に、何か分かるだろう」

 そう言い立ち上がる。
 そしてその後、ゴライドルは歩き出した。