ここは美鈴とミィレインが居る特別観覧席。
 美鈴はミィレインと話をしていた。
 すると通路側で何か揉めるような声が聞こえてくる。

 「なんだろう?」
 「何か揉めてるみたいね。ミスズ、二度も同じヤツが襲ってくるとも思えニャいけど……警戒した方がいいかも」

 そう言われ美鈴は、コクリと頷いた。
 そうこうしていると扉が開き、一人の男が入ってくる。その男は、女神崇拝派のドドリギア支部長であるモドルグ・ドラセルゼだ。

 「貴女がミスズ様でしょうか?」

 そう言いながらモドルグは、ミスズの方へと向かってきた。

 「……」

 そう聞かれるも美鈴は、何も言わずモドルグを凝視する。

 「警戒されているのですね。ご安心ください、ミスズ様のことを護るために来たのですから」
 「護るって……誰からですか?」
 「決まっていますよ……貴女の命を狙う魔王崇拝派からにね」

 そう言いモドルグは、手を美鈴に差し出した。
 だが、ミスズはその手を取らない。

 「その必要は、ありません。ウチは、護ってもらわなくても……自分の力でなんとかします」
 「自分の力だけで、どうにかする? それは、困りましたね。貴女には、我々の指揮をとって頂きたかったのですが」
 「そういう事かぁ……元々ウチを担ぎ上げて、自分たちが優位に立ちたいだけ。そういうの……ウチ一番、嫌いなんだよね。悪いけど、断ります」

 それを聞きモドルグは、顔を引きつらせる。

 「これは……思っていたよりも、交渉が難航しそうだ」
 「分かったら、帰ってくれませんか? それに、こんなことはやめてください! 同じ種族で二派に別れて争うなんて……悲しいです」
 「フッ、それをなくすために一つにするのですよ」

 そう言いモドルグは、ミスズを見据える。

 「それって……一つの思考にするってことだよね」
 「まあ……そうですね、そうとも言えますか」
 「人それぞれ思考がある……だから考えの違う人も居るのって当たり前なんだよね。それを一つの考えにするって間違ってると思う」

 それを聞きモドルグは、呆れた表情を浮かべる。

 「だから争いがあるのでは?」
 「確かにそうだね。だけど……それは、どちらも理解し合わないからだと思う。それだけじゃない……お互い間違いを認めないからだよ」
 「……間違い、ですか。何を根拠にそう思うのですか?」

 そう言われ美鈴は、ハァーっと溜息をついた。

 「そもそも、なんでウチが女神側だと思ったの?」
 「それは、どういう事でしょうか。言っている意味も分かりませんし、先程の問いと関係があるのでしょうか?」
 「あるよ。ウチは、そもそも……女神スイクラムに殺されそうになったのっ!」

 それを聞いたモドルグは驚き仰け反る。

 「ま、まさか……あり得ない。我らが女神が……そんな酷いことをするなんて」
 「嘘じゃないよ。実際に何度か殺されそうになったからね」
 「それが本当だとして、なぜそのようなことに?」

 そう言いモドルグは、不思議に思い首を傾げた。
 美鈴はそう問われて、ここまでの間に何があったのかを話せる範囲で説明する。
 その説明をモドルグは、真剣に聞いていた。