ここはスイラジュンムの最も南西に位置する名もなき孤島。この島は険しい山々が多く、町や村など存在しない。だが、大きな神殿が高台に建っている。
 その神殿の周囲には、小さいながら宿舎や店が建っていた。
 その神殿の入口付近に二人の男性が立っている。……何やら揉めているようだ。

 「ハウゼル、待ってください!」

 そう言い聖職者が着るような服装の水色の髪の男は、ハウゼルと云う聖職者風のイケメンを長い髪をなびかせながら追いかける。

 この男性はカラン・スイラム、二百二十二歳。そう人間ではなく、水天族と云う種族だ。……どちらかと云えば天使に近い存在である。
 透明感のある水色の長いサラサラした髪は風になびくと、まるで鱗粉を周囲にまくようにみえた。
 それだけではない。少年のような優しい表情と透明感のある肌。それらは明らかに人でないことが分かるほどである。

 その声に反応しハウゼルは振り返った。

 「カラン、来るな! 女神スイクラム様の声が聞こえなくなった。それに……このところ、暑さが増すだけではなく。この世界は水が豊富のはずなのに減っている」

 そう言いながらハウゼルは遠くをみつめる。

 この男性はハウゼル・スイクゼエム、二百二十六歳で水天族だ。
 ピンクが混ざった若干濃い水色の全体的に透明感ある長い髪を部分的に編み込んでいる。
 キツい目つきだが透明感のある肌のせいなのか、元々優しい性格のせいなのか人相は悪くない。

 因みになぜ聖職者風なのかと云うと、明らかに普通の聖職者の着る服よりも派手だからである。
 その聖職者服は、キラキラと光って何色にもみえるようなパステルカラー。どうみても、普通の聖職者にはみえない。
 そうこの二人は……いや水天族自体、最もスイクラムと近い存在なのだ。
 水天族の年齢は、最高で何千歳と超える者もいるほどである。そう魔族や竜人族並みに長生きだ。
 因みに他種族の中にはそのぐらい長生きをする者もいる。そしてエルフもその中に入るのだ。……って、エリュードはまだ子供ってことか? まあいいか……。

 そう言われカランは、つらい表情を浮かべた。

 「ええ、でも……だからって……。ハウゼルがそれを探るために、この地を離れるのはおかしいです」
 「カラン、俺たちの役目はなんだ?」
 「スイクラム様の代わりにこの世界の管理をすること。そうだとしても、他にも適任者はいます!」

 それを聞きハウゼルは、首を横に振る。

 「いたとしても上が動かない。だから俺がやるしか……それに上の許可も得てる」
 「……分かりました。では、待っていてください……僕も許可を得てきますので」
 「まさか、カランもついてくるつもりか?」

 そうハウゼルが問うとカランは頷いた。

 「勿論です……ハウゼルだけでは、心配ですので」

 そう言いカランは許可をもらいに上層部へと向かう。
 それをみてハウゼルは、ハァーっと溜息をついている。

 (心配しているのは本当だろう。だがあの様子では、半分遊びだな)

 そう思うと苦笑した。
 その後ハウゼルは、カランが戻ると旅支度をするため二人で宿舎に戻る。
 そして二人は旅支度が終わると、この地を発ったのだった。