夜空に咲く花火の下で

静まり返ったフロアにカタカタと私のパソコンのキーを打ち込む音が虚しく響く。

何で私がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
今日は絶対に早く帰りたかったのに、と脳内で愚痴をこぼす。
手を休め、机の空いているスペースに右頬をペタッとくっつけてため息を吐いた。

今日は会社近くの河川敷で花火大会がある日だ。

毎年、うちの会社周辺の道路は混むし公共交通機関は人であふれている、と去年そのことを教えてもらった。
だけど、それを聞いたのが花火大会当日だった。
その日の仕事が終わり、私は人混みを逆走して駅まで歩き、そこから電車に乗って家に帰った。
人と何度ぶつかったかなんて覚えていない。
帰るだけでヘトヘトになったのは初めてで、こんな経験は二度としたくないと思えるほど。
そして、"花火大会の日は絶対に残業しない!”と心に刻んだ。

そんなことが去年あったので、今年は例の教訓を生かそうといつも以上に時間を気にして仕事をしていたんだ。
夕方になり、会社前の歩道にはチラホラと浴衣を着た集団が歩いている姿が見えた。
間違いなく今年も混むから定時の十七時半には帰りたかった。
いや、帰るつもりで仕事も早く終わらせれるように頑張っていた。
はずなのに……。

「大島、悪いけど取引先の住所入力をやり直してくれ」

定時間近、悪魔の声が聞こえた。