『好きだよ』
雨降る中、一つの傘に納まる二人。外にいるはずなのに、雨音と彼への意識に囚われ、まるで二人きりの世界だった。
それなのに、彼の言葉は他人事のように思えてしまうのは、どうしてだろう。
『えっと、私をってこと?』
『伝わってないなら、何度でも言うよ。俺は君のことが好きだ』
彼の声だけが真っすぐ届き、気づけば目頭が熱くなる。
『私も、あなたのことが好き』
一世一代の告白を見て、読者である私も気づけば一緒に涙を流していた。やっと結ばれた、ありがとう、尊い、と感情が爆発する。
とはいっても、この漫画はもう何回読み返したか分からなくて、それなのにこんなに感動できるのだから、改めて名作だなと感心させられる。
やっぱり、少女漫画は最高だ。いつだって私の胸をキュンキュンさせてくれる。リアルの恋愛なんかより、よっぽど素敵な世界で満ちている。
理央くんと出会う少し前までの私なら、そう信じて疑わなかった。
あれから理央くんとは二回デートを重ね、彼の色々な一面を知っていった。理系の大学に通っていること、ゲームは好きだけど下手なこと、最近ジムに通い始めたこと。
共通点が多いわけではないけど、一緒にいるときは心地よくて、話していて楽しいなと感じていた。
そして、次のデートを明日に控えている。
調べたところ、三、四回目のデートで告白するのが相場のよう。とはいえネットの情報。彼との関係が同じように進むとは限らない。そもそも、彼が私をどう思っているのかさえわからないのだから。
それでも、もしかしたら……。
そう、淡く期待してしまっているのが、胸のあたりがむず痒く、叫んでしまいたくなる。
とにもかくにも、明日の服を決めなければいけない。そのためにも愛花にアドバイスをもらおうとメッセージを開くと、彼女からちょうど通話が来た。
「もしもし?」
「……フラれちゃった」
間があって、沈んだ声が届く。たった一言だけど、それが良い感じだったマチアプの男性だということはすぐわかった。でも、どうして……。
「他に好きな人ができたから、もう会えないって」
こっちから聞く前に、彼女の方が先に答える。崩れ落ちるようにやや早口で、鼻を啜る音が通話越しに聞こえた。
励ますべきなんだろう。けど、私なんかが気の利いた一言を出せるわけがなかった。だからひたすら聞いて、落ち着くまで待つことしかできなかった。
「聞いてくれてごめんね、明日デートなのに」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「ありがと、明日頑張って。おやすみ」
「ありがと、おやすみ」
通話を切り、私はベッドへと飛び込んでは大きく息を吐く。
愛花はどちらかといえば明るい性格。嫌なことがあっても前向きに捉えて、私にはない彼女の良いところだなと思っていた。
だからこそ、さっきの様子には驚いた。
あんなふうに落ち込んでしまうのは、それだけ本気の恋だった証拠なんだろう。それはある意味、とても素敵なことのように思える。
でもそれは他人ごとだからで、当の本人は地獄にも落とされた気分に決まっている。
失恋は、それだけ傷つくもの。
そして今までと違って、私にとっても完全に他人ごとのようには思えない。
私も明日、突然フラれるかもしれない。
そしたらもう、立ち直れない気がする。
それだったら結果が出る前に終わりにしてしまった方が良いのではないか。そんな最低な考えが浮かんでしまう。
あんな楽しみだったのに、今は雲に覆われるように心は陰っていた。
雨降る中、一つの傘に納まる二人。外にいるはずなのに、雨音と彼への意識に囚われ、まるで二人きりの世界だった。
それなのに、彼の言葉は他人事のように思えてしまうのは、どうしてだろう。
『えっと、私をってこと?』
『伝わってないなら、何度でも言うよ。俺は君のことが好きだ』
彼の声だけが真っすぐ届き、気づけば目頭が熱くなる。
『私も、あなたのことが好き』
一世一代の告白を見て、読者である私も気づけば一緒に涙を流していた。やっと結ばれた、ありがとう、尊い、と感情が爆発する。
とはいっても、この漫画はもう何回読み返したか分からなくて、それなのにこんなに感動できるのだから、改めて名作だなと感心させられる。
やっぱり、少女漫画は最高だ。いつだって私の胸をキュンキュンさせてくれる。リアルの恋愛なんかより、よっぽど素敵な世界で満ちている。
理央くんと出会う少し前までの私なら、そう信じて疑わなかった。
あれから理央くんとは二回デートを重ね、彼の色々な一面を知っていった。理系の大学に通っていること、ゲームは好きだけど下手なこと、最近ジムに通い始めたこと。
共通点が多いわけではないけど、一緒にいるときは心地よくて、話していて楽しいなと感じていた。
そして、次のデートを明日に控えている。
調べたところ、三、四回目のデートで告白するのが相場のよう。とはいえネットの情報。彼との関係が同じように進むとは限らない。そもそも、彼が私をどう思っているのかさえわからないのだから。
それでも、もしかしたら……。
そう、淡く期待してしまっているのが、胸のあたりがむず痒く、叫んでしまいたくなる。
とにもかくにも、明日の服を決めなければいけない。そのためにも愛花にアドバイスをもらおうとメッセージを開くと、彼女からちょうど通話が来た。
「もしもし?」
「……フラれちゃった」
間があって、沈んだ声が届く。たった一言だけど、それが良い感じだったマチアプの男性だということはすぐわかった。でも、どうして……。
「他に好きな人ができたから、もう会えないって」
こっちから聞く前に、彼女の方が先に答える。崩れ落ちるようにやや早口で、鼻を啜る音が通話越しに聞こえた。
励ますべきなんだろう。けど、私なんかが気の利いた一言を出せるわけがなかった。だからひたすら聞いて、落ち着くまで待つことしかできなかった。
「聞いてくれてごめんね、明日デートなのに」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「ありがと、明日頑張って。おやすみ」
「ありがと、おやすみ」
通話を切り、私はベッドへと飛び込んでは大きく息を吐く。
愛花はどちらかといえば明るい性格。嫌なことがあっても前向きに捉えて、私にはない彼女の良いところだなと思っていた。
だからこそ、さっきの様子には驚いた。
あんなふうに落ち込んでしまうのは、それだけ本気の恋だった証拠なんだろう。それはある意味、とても素敵なことのように思える。
でもそれは他人ごとだからで、当の本人は地獄にも落とされた気分に決まっている。
失恋は、それだけ傷つくもの。
そして今までと違って、私にとっても完全に他人ごとのようには思えない。
私も明日、突然フラれるかもしれない。
そしたらもう、立ち直れない気がする。
それだったら結果が出る前に終わりにしてしまった方が良いのではないか。そんな最低な考えが浮かんでしまう。
あんな楽しみだったのに、今は雲に覆われるように心は陰っていた。



