わあ……! すごい、みてよ蒼真。星空みたいにぴかぴか。ちょっと温かい気がするけど、宝石(jewelry)なのかな?
んー、そうかもね。確信的な《《イメージ》》(imagery)は思い描けないけど。
ぼくはスノードームっぽいと思う。透明なグリセリンのなかを舞うラメパウダー。加工された光沢剤に近いかがやきを連想する。とはいえ、星座っていう表現のほうがずっとすてき。高校時代にかぎらず、ぼく以外に知っているひとっているのかな。きみが意外とロマンチストなこと――
ねえ。いま、失礼なこと考えてるでしょ。
まさか。それよりも、ほら。この小さな宝石のなか、ときどき映りこんでる人影ってぼくらみたい。春希さんがトイカメラで撮る写真よりピンぼけしてるけど。
どれどれ。
きみの顔が急接近する。ぼくの肩に寄りかかるような態勢。面映ゆくなり離れようとすると、ぼくの目線をたどろうと夢中になったきみが、つられて傾くから。ふたりとも滑稽に倒れてしまう。
ほら、ここ。シルエットが動いてるけど、ちゃんと鏡になってないでしょ? たぶんこれ、あのころのぼくらだよ。
照れ笑いをうかべながら髪を整えていたきみが、神妙そうに頷く。
しかも、これ……
唐突に途切れたことば。迷子になった切れ端が床に落ちるより、きっと早く。世界は一変した。
あっ――ユニゾンする驚嘆の声。同時にトロッコが消え、前のめりに倒れかける。あたりいちめんを闇が覆いつくす。程なくして、それは完璧な闇じゃないことに気づく。宵の口――三日月の明るさが、とばりに歌う群星にかなわないころ。
前触れもなく夜にさらわれ、ぼくは恐怖をかんじなかった。むしろ安らぎにみたされていた。暗やみの具合と、水仙のさわやかな甘い匂い、影も凍るほどの寒さに記憶がふるえる。慕わしく、待ちわびるように。
記憶を補完しようと、描き足されていく景色。路面電車の廃線跡。海につづく路地裏の階段。和モダンな豪邸の生垣から跳びだし、いつも挨拶してくれたラブラドール・レトリバー。
いつもの遠回り、ふたりだけの帰り道。思い出を拾いながら歩く帰り道。さっきまで側にいたきみはいない。それでも迷わず歩きつづける。たしかな予感がささやくから。
あそこのお弁当屋さんの曲がり角、ふたつの信号を渡ったさきにある駅のホーム。冷たいベンチに腰かけ、スクールバッグを抱えたきみがぼくを待っていると。目が合った瞬間、ぱっと華やかに笑い、大きく手を振ってくれるきみに、《《見惚れぼうけ》》するぼくがいると。



