片手で丸を作って

「陸与陽くんはきちんと自分を大切するんだ
ね。自分を大切にすることって難しいよね」

 僕が体育館に来た理由は、次の時間でバトミン
トン用のネットを使うからだ。

 何に使うかは分からないが、先生が使うと
言ったものは絶対だ。

「……あのさ、君、名前なんていうの」

 陸与陽は急に僕の方向を向き直して、口調
が柔らかく、僕の返事を待っていた。

「え? 今の話流れだと話終わったし、今な
んで急に。僕にそもそも興味あった? え?」

 バトミントン用の網を両手で持ったまま、
 後ろにいた陸与陽を振り返った。

 陸与陽の目を見て、現実へと引き戻される。 

 現実なのかこれは……

 僕は嬉しかった。

 先ほどきちん答えてくれるだけでよかった。

 話が終わってしまい、あまり僕のことより
自分のことで精一杯なんだと思っていた。

 話しただけでよいことにしようと思った矢
先に、陸与陽が声を掛けてくれた。

 なんということでしょ。

 前のあなたはクールで表情もなく、自分の気持ちを優先していた。
 ですが、なんということでしょ。こんなにも違うじゃないですか。

 ビフォーアフターの映像が脳内に響き渡る。