片手で丸を作って

 だけど、出そうになる涙をおさえてはくれ
ない。
「そんな無理して笑う明は見たくない。明。
俺、明と会ったのはあの体育館じゃないって
言ったよね。ここに来たってことは覚えてる
ってことだよね。俺と初めて会った時のこと」
 抱き寄せたまま与陽は僕の両手をがっしり
掴んでいた。
 嬉しそうに切なそうに話す与陽。
 そう、初めてではないことはあとから気づ
いた。
 僕の教室に与陽が友達と来た時にフッと思
い出した。
「…うん。僕ら、ここの教室で会ったよね」
 僕は下を向いて、思い出すかのように言う。
「そうだね」
 与陽は優しい口調で返事をする。
「ここでドーナツあげたけど、あの時きちん
と食べれた?」
「おかげさまで食べれたよ。あの時、ドーナ
ツもらって食べた時、泣いたんだ」
 僕の右腕を撫でるように両手で与陽は触れ
てきた。
「……なんで?」
「俺、この日常がつまらなかったんだ。友達
もいるし、普通に学校に行って勉強して幸せ
なんだと思う。だけど、俺自身どうしたいの
かなんか嫌になってた。明とあの時、会って、
何かが変わったんだ。俺、明と出会ってこん
な自分があるって知れたんだよ」