片手で丸を作って

 その手に僕はそっと置き、与陽の手に顔を
傾ける。
「うぅぅ、僕がでぎないから」
 話しづらそうにしている僕を見て、与陽は
顔から手を離す。
「母さんに言われるんだ。うまく洗濯できな
い時があって。その時もバツだって。今はで
きるけど。何かしら出来ないことがあったり
したらたまにバツって言われる」
 僕は家族がいる。父と母どちらもいるが、
はっきり言ってなじめない。
 僕の話を聞かないし、一番は母の主張が激
しい。
 自分のもののように思い通りならなかった
ら、バツと両手でバツ印を作る。
「…明」
 僕は苦しそうに唇を噛みしめた。
 泣きそうな目を堪えて、上を見上げる。
 与陽はそんな僕をまた抱き寄せた。
「泣くときは泣いていいんだから。いつもの
明だけじゃなくて、違う明も見せてほしい」
 なんでそんな優しい言葉をかけてくれるん
だ。
「今は一人暮らししてるから。そんなの少な
くなってるけど、時々電話がかかってきてた
だ話すだけでもバツって言われるくらいだか
ら……大丈夫」
 僕はとびっきりの笑顔を与陽に向ける。
 開いたままの窓は風が気持ちよくて、涙を
拭ってくれそうだった。