片手で丸を作って

 周りを見渡すと、誰もいないので生徒の玄
関側から自分の下駄箱に入っている靴に履き
替えた。
 与陽はもう来ているだろうか。
 廊下を走って、右手には自分で作ったドー
ナツがある。
 ここまで来るのに走ったので、崩れていな
いか心配だが、多分大丈夫だろう。
 そんなことを考えていると、自分の教室に
着いた。
 そこには誰もいなかった。
 だけど、教室の窓が一つ開いていた。
 閉めなかったのか。
 僕は窓の方に行き、閉めようと鍵の方に手
を掛けようとした時だった。
「明」
 窓の方を見ると、外に与陽がいた。
「今、そっちに行く」
 与陽は走ったのだろう。
 息切れをしていた。
 いつも何かある度に走って駆けつけてくれ
る。
 それだけでも嬉しい。
 与陽が来るまで、窓は開けたままにした。
 閉めればよかったのに、窓から流れてくる
風が気持ちよくて風を感じていた。
 その風は温かく、ずっとこのままでいたか
った。
「…ふぅ」
 僕は風にあたり、窓から外を眺めていた。
「明」
 息切れをして走ってきた与陽が教室のドア
を手にかけて、僕の元へ駆け寄った。
「与陽」
 窓から与陽に顔を向けた。