片手で丸を作って

 それは誰にも言えていない。
 これを言うことで現状は何も変わることは
ない。
「…あるよ」
 僕は真顔で言ったが、目を背けて与陽の方
を見ないようにした。
「そうなんだ。聞いてもいい? 俺、聞きた
いんだけど」
「……うん」
 顔を上げると、与陽は窓側の方に顔を向け
ていて、話しやすいようにしていた。
 そのまま黙ってしまった。
 話そうとしていたのに言葉が出てこない。
「……っ……」
 僕は顔を上げているが、目を泳がせて、下
を向いてを繰り返した。
「…いいよ、無理しなくて。明が話したくな
いならいい」
 顔を僕の方へ向けて、真剣な目で僕に訴え
てくる。
「明に困らせたくない。そんなに悩むことな
ら俺に無理に言うことはしなくていい」
 無理はしていない。ただ、僕が情けないだ
けで与陽を困らせたい訳じゃない。
「……言える……」
 僕は拳を握りしめて、与陽と目を見据える。
 言いたいのに……言えない。
「…っ……ごめん」
 僕は与陽に謝った。
 口は開いては閉じてを繰り返してしまった。
「明が謝ることじゃない」
 与陽がそう言うと、食堂のおばあちゃんの
声が響き渡る。