片手で丸を作って

据える。
「…与陽」
 与陽は人前を気にすることなく、感情をあ
らわにしていた。彼は悔しそうに唇を噛んで、
僕を睨むように見てくる。
「僕はただクラスメイトと話していただけだ
から。それより、僕の鞄、返して」
「それよりも?」
「僕の鞄、返して!」
 僕は与陽の言っていることは聞かなかった。
「……返す前に俺と学校デートするぞ」
「は? 外でやればいいじゃん」
「明とは同じクラスじゃないし。学年は一緒
だけど一緒に行動している訳じゃないし。会
ってはいるけど、あまり学校で過ごせてなか
ったから」
 与陽はそんなこと考えていたのか。
 僕も学校で与陽と過ごしたことがなくて、
一緒に過ごせたら楽しいだろうなと思ってい
た。
「……分かった。行こう」
 僕は下を向いてから前を向く。
「よし。じゃあ行くぞ」
 そう言って、与陽は僕の手をひいて、また
走り出す。
「ねぇ、与陽」
 僕は走っている時に名前を呼んで、声を掛
けた。
「なに?」
走るのをやめて、手を繋いだまま与陽は首
を傾げて顔を覗うように聞いてきた。
「手…繋がない方がいいんじゃない」
「なんで?」