片手で丸を作って


「明」
「なに? なんか最近あった?」
「え? なんで?」
「明さ、自分で自覚してないの」
「だから、なにがって」
「この一週間、明、ドーナツ食べてないじゃ
ん。自分でも気づいていないの」
 僕たちは数学の授業を終えて、一〇分間の
休憩に入っているところだった。
「え? ドーナツ僕が食べてないの?」
「俺が聞いてるの。明、大丈夫か?」
 確かに僕はこの一週間好きなドーナツを食
べていない。
 食べようという気力すらなかったのだ。
 普通のご飯は食べられる。
 でも、ドーナツを見ると、部屋に飾ってあ
るドーナツの写真を見て、与陽と話したこと
が蘇ってくる。
 僕の部屋にあるドーナツの写真を布をピン
で留めて、見えないようにした。
 与陽ともそれ以来、話していない。
 連絡することはお互いなかった。
 もう友達すらなれないのかと思うと、普通
に話していた日々が懐かしく思う。