片手で丸を作って

 まだ落書きは顔に残っていて、見ると笑っ
てしまいそうだったので、目を逸らした。 

「あ、うん。今、行く。あ、君待ってて」

 茶髪な彼は両手で待っててと言い、早足でドーナツを取って、俺の所へやってきた。

「はい、これ」

 茶髪な彼は俺にドーナツを渡してきた。

「これ、いいの?」

「うん、いいよ。これ、今君が食べたいかな
と思って。これだけ、焼いたドーナツ。食べ
てみて。じゃあ、また」

 茶髪な彼はそう言って、教室へ戻っていた。

 もらったドーナツはハニーチュロだった。

 焼くなんて発想なかったな。

 美味しいのだろうか。

 紙袋に入っていたドーナツを彼がいた教室
から離れたスペースで一人で食べた。

「うまぁ……」

 焼いたドーナツは普通に食べるよりおいし
くて、頬が緩んだ。

 普通のよりも焼いた方が人一倍美味しい気
がする。

「美味しいわ…」

 さっきまで一人でいて、休みたいと思って
いた。

 自分に疲れていた。

 自分以外の人から言われる言葉に全部が黒くなっていた。