片手で丸を作って


 ここはドーナツ屋というくらい、たくさん
の種類があった。

 ドーナツなんてどうでもよかった。

 ただ、彼の笑顔がもう一度見たかった。

 彼の教室のドアで彼を見て立ち尽くしてい
た。

 もういいかと思い、去ろうとした瞬間、
明るい声が頭の中で釘を刺した。

「ねぇねぇ、君も食べない?」

 彼は俺に声を掛けてくれた。

「…いや……俺は……」

 断って帰ろうとしていたが、彼は服の袖を
掴んできた。

「ほら、こんなにドーナツあるんだよ。ほら、
君も食べて」

「なんでそんなにドーナツ買ったの?」

 疑問に思えた。

 こんなにもドーナツを好きなら、一人で食
べればいいじゃないか。

 というか、なんでドーナツ。

「なに言ってんの。好きだからに決まってん
じゃん。みんなに食べてほしくて、貯金はた
いて買っちゃったんだよね。アハハ」

 彼はてへと笑い、頭の上に手をのせて、ア
ハハと口角を上げていた。

「明! これもらっていいかって聞かれてる
ぞ。どうする?」 

 茶髪な彼に落書きをされた男子が声を掛け
ていた。