俺は瓜生明との出会いはひょんなことから
始まった。
「与陽。ねぇ、俺ら体育館でバスケするんだ
けど、与陽も行く?」
聡は俺に聞いてきた。
「…あ…、いいや。俺、ちょっと歩いてくる
わ」
「おう、迷うなよ。実は行くよな」
「暇だから行くわ。またな、与陽」
じゃあと俺は手を振って、どこかへ行こう
とブラブラした。
「………なにしよう」
独り言を呟きながら、廊下を歩いていると、
バカでかい声が廊下中響き渡る。
「明! なにしてんだ、お前」
「なにもしてねぇだろう。ただ、寝ていた朔
にマーカーで落書きしただけだよ」
「だよじゃねんだよ!」
同学年だろうか。男子二人組で取っ組みあ
いでもしているのか。
お互いの両肩を掴んで、目を見合わせてい
た。
ひとりは前髪を左右に分けていて、クスクス
と笑っていた。
もうひとりは怒っている口調であるが、もう仕方ないなぁというような顔をしていた。
ただの男子同士で絡んでいるだけかと目線
を違う方向に変えようとした時に、彼が急に
声を出した。
「あ、そうだ。みんな~、ドーナツいっぱい
買ったから食べる人、僕のところに来てね~」
叫んだ彼はニコニコな笑みを浮かべて、廊
下にいた子や教室にいた生徒たちは「え? タ
ダでくれるの。行ってみたい。行こう行こう」
と男女問わずに教室に入っていた。
みんな人気者を見に行くかのように小走り
で彼の元へ駆け寄っていた。
「……なんだろう」
俺は気になった。
いつもはそんなこと気にしないで通り過ぎるのにみんなの前で笑顔で言う彼がいつも以上に目から離れなくなかった。
頭からその笑顔が消えなくて、俺は彼のい
る教室へ歩み出した。
彼の教室のドアの所まで行くと、何個買ったのか数えるのがやっとというほどの数のドーナツがあった。



