「朔さ、これどう解くの?」
一番苦手な日本史を朔に教わっていた。
「これはこうやって覚えていけばテスト大丈
夫だから」
中間テストが近づいてきて、焦りを感じ始
めた。
勉強は毎日コツコツやるタイプだが、苦手
なものは苦手で覚えられる気がしない。
「覚えられーん。無理だわ。もう」
僕は頭を後ろにのけぞり、覚えんの、だる
いと文句をダラダラと呪文のように唱えてい
た。
「……明さ、日本史苦手なのは分かるけど、
覚える努力しないとさ」
朔は呆れ顔でため息を吐いてから、頬杖を
ついて、僕の方を見た。
「だってさ、覚えたいけど覚えられないから
苦労してんの、僕の気持ちはわからないでし
ょ」
僕は独り言のように呟く。
「はぁ、まぁいいや。少し休憩しよう。俺、
なんか買ってくるから。なにがいい?」
「バナナジュース」
僕は鞄からドーナツを取り出して、口内に
入れていた。
「…明。それって、自販機にあるか?」
朔は僕に首を傾げて、聞く。
自販機には緑茶やコーヒーや紅茶があって、
バナナジュースはないはずだ。
それをなぜ飲みたいのか。
「ないよ。食堂に出てくるやつのこと言った
だけ。えへへ…」
笑ってごまかした僕を見て、聡は僕の頭を
両拳でグリグリさせていた。
「痛いから。マジで、やめてよね~」
痛い痛い~と叫びながらも、本当に痛そう
になったら朔はやめて、行ってくると言って
教室から出た。
朔はなんだかんだ優しい。
勉強も教えてくれて、心配もしてくれる。
優しくて、強い。
ドーナツを食べ終えて、ポケットティッシ
ュを手で拭った。
参考資料のページをめくっていたら、教室から見えたのは陸与陽が歩いている姿があった。
陸与陽。
廊下、歩いている姿を見るのは初めてだっ
た。
いつも見ない光景に僕は目を奪われてしま
った。
思わず、陸与陽がいる所へ駆け寄る。
駆け足で教室から出た。
教室のドアで朔と会う。
朔と僕の分を買ってきたのだろう。



