片手で丸を作って


「与陽」

「なに?」

声を掛けてきたのは友人の聡(さとし)が
低いトーンで陸与陽を呼ぶ。

「最近、なんかあった?」

 聡は陸与陽の目の前で牛乳パックをガバ飲
みしていた。

プゥハアと息を吐いた後にゲップをして、口を開く。

「恋をしている!」

 聡が口を開けた瞬間、実(みのる)が携帯
でゲームをしていて、急に大きい声で言いだ
す。

 動物を育てるゲームにハマっているらしく、
休憩時間になる度、先生の目を盗んでやって
いる。

「実さ、話聞いてたの。ゲームバカなのに話
は聞いてるのな。んで、どうなの。与陽」

 実と聡の二人は同時に与陽の方を振り向く。

「どうって……恋はしてないし、そもそも恋
とかしたことないから」

「はい、出ました! 恋したことない発言!
こんな顔がよくて、勉強もできて、髪型イマ
イチだけど優しい。こんなイケメンが恋した
ことないとかあり得ないわ」

 聡は与陽を指さして、口に咥えていた牛乳
パックを机に置き、両手を叩いて、左右に首
を振る。

「この髪型よくない? キノコになっていて
さ」

 触っていた携帯を机に置き、自分の髪を薬
指でクルクルさせて俺は自分の髪を触る。