アオハルペアリング

「すみません、先輩のクラスの人との時間を邪魔してしまって」

 放課後会って一番に相田は申し訳なさそうな顔でそう言った。

「謝るなって。むしろひっつかれていたから助かったよ」

 む、と相田は唇を引き結ぶ。 

「……そうやって俺を甘やかすのどうかと思います」

 どっちなんだよ難しいやつだなと思う。


 相田は穴が空くほどじっくりと俺を見ながら絵を描いていった。妙にドキドキするなと思う。
 放課後に同じ部屋で二人きりだからだろうか。

「知っていますか、先輩」

 俺の心の中まで見透かすかのように相田は言う。

「聞いた話なんですけど。絵は人の外見だけじゃなくて、内面も見るんです」

 前髪ごしでも目が合ったのがわかった。
 途端、視線に背筋がゾクゾクした。
 反対に顔は火照る。
 なんだこれ。

「どうかしましたか?」 

 相田が不思議そうな顔をする。

「いや、別に!暑いなここ」

 そう言って俺はガラリと窓を開ける。

「……外は寒いですけど」
「寒っ!」

 花冷えというやつだろうか。
 春といっても夜に近づくとまだ寒い。
 早く言ってくれよ、と思う。


 しばらく時間が経って作業も一段落したところで言った。

「そろそろ帰ってもいいか?」

 いい時間だしと思ってそう言うと、相田はぽつりと言った。

「ダメです。まだここにいて」
「え?」 
「話したいことがあるんです」

 俺は立ち上がりかけてもう一度椅子に腰かけた。

「え、なに?」

 迷うように沈黙してから相田は口を開いた。

「先輩、すみません。本当は、先輩があの室崎さんとかいう人と話しているとき俺むかついてました」

 つっかえながら相田は言う。

「俺にとって先輩は特別なんです。初めて隣にいてほしい。誰かに取られたくないって思った」

 その言葉に俺は固まる。

「……なにか言ってください」
「あの、えっと」

 相田がなにやら恥ずかしそうだが、俺も誰かからこんな真っ直ぐな好意を伝えられたことがないから恥ずかしい。 

「ありがとう。俺も相田が……。なんというか特別だよ」
「え」

 今度は相田が固まる。

「俺、特定のだれかと仲良しってこともなくてなんていうかグループをとびとびで回っているって感じだから。学校で誰かとこんなに長くいたことないかも」
「意外です。先輩、友だち多そうだから」
「多ければいいってもんでもないだろ」

 俺は苦笑する。

「じゃあ先輩は俺のこと、その。後輩として好きですか?」

 好きというのは恥ずかしい。

「ゆ、誘導尋問だ」
「難しい言葉知ってますね。鶴見先輩のくせに」
「くせにってなんだ」

 しばらく考えて、言葉を選んでから言った。

「結局のところ。俺さ、お前といっしょにいると楽しいから」

 唇を尖らせてから、一気に言う。

「これからも仲良くしてくれると嬉しい」

 やっとそれだけ言った。
 あー恥ずかしいと熱くなった顔を手で煽ぐ。

「いいんですね?」

 相田は笑った。

「俺、重いですよ?」
「……わかってる」 

 夕日で伸びた二人の影が混じっていた。
 帰宅を促すチャイムが鳴る。

「ほらそろそろ帰るぞ」
「はい」

 今度は素直に相田は頷いた。