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 とっくに過ぎ去った電車の方角を、あたしは茫然とみつめつづけていた――そのとき。

 スマートフォンの着信音が鳴った。日ごろ電話なんてしないので(ことばにすると虚しくなる)反応に遅れてしまう。ショルダーバッグの中をわちゃわちゃ漁り、なんとかひっぱり出す。画面を確認すると、数少ない親友……今回の同窓会の幹事でもあるかのじょの名まえが表示されていた。

『あー、やっと繋がった! いまどこっ?』

 耳もとで甲高い声が爆ぜる。卒業してから会う機会もめっきり減ったけど、声をきくだけでわかる。かのじょは変わってない。あたしの憧れ。普遍的なムードメーカー。

 あたりを見回すも、残念ながら田舎の田園風景から目印にえらばれるようなものはない。「ごめん、まだ最寄り駅の踏切のところにいる」と報告するが、なんだか電話の向こうは盛りあがっているようで掻き消されてしまう。

『ちょびーっと集合時間より早いんだけどさっ、もうみんな集まってるから! あんたにも早くきてほしいの!』

 パワフル&カリスマ仕様の健在な声が、あたしの鼓膜をブラジル料理のシュラスコみたいに貫く。かつて、一キロさきまで届くという意味で「ドリアンの音声バージョン」と男子にからかわれ怒り散らかしていたかのじょを思いだす。個人的には名誉あるすてきな渾名と感心したし、心中こっそり拍手を贈ったけれど。

『あいつもいるよ。ほら、あんたと仲良かったかれ。奇跡的に有給とれたんだって! ナイスっしょマジでー』

 とくん、と鼓動が跳ねる。え……うそ。いま、何て言った? あのひとがいるの?

『いま、高校時代の恋バナ? しててー! あいつ、ずっと片想いしてる子がいたみたいでっ。あれで結構モテてたからさ、みんなも大盛りあがりよ。

 なのにあいつ、あんたが来るまでおしえないって謎に頑固で! だから全力ダッシュでよろ〜……あっはっはっ、ばかな男連中がオッズまで計算してらぁ!』

 嵐のような電話がとぎれ、あたしは遠くかなたの砂浜に打ち捨てられたパラソルのように立ちつくす。

 恋バナ。片想い。当時のあたしが縁遠いと、ろくに思索もせずワードローブから片づけてしまったもの。

 だめ、おちついて――こころに言い聞かせる。根拠なんてない。勘ちがいも甚だしい。わかってるけど、きもちが逸ってしかたない。胸のなか、ひらひらと蝶ちょが羽ばたいてる。