私はアプリを始める前、一方的に好意を寄せていた男性に連絡先を渡したが、いつも聞いている曲を聴くと、涙が止まらなかった。

何もしてないのに、フラれた。

そう、二十六歳喫茶店勤めのイケメン男性に何もいうことなく、終わった。

私はその時思った。
男性に対する苛立ちと自分の言動に。

今、思い返せば、腹が立ってどうしようもない。

私、会社勤め二十四歳の斎藤由利(さいとうゆり)は、現実の恋はやはり疲れていた。

恋すると、私は気になる男性に一途になるが、なぜか原因が分からず男性のラインが途切れてしまう。

高校の時からそう。

好きだった相手に告白して付き合うが、
いつも相手に言われるのが、顔がタイプだから付き合ったけど、なんか違ったしつまらないと言われてしまう。

普通に会話しているだけなのに。
でも、好きになった人でも隠していることがある。

「あー、もうやっぱり現実はないわ。やっぱ推しに愛する時だけ幸せだー」

私は家に帰って、非現実な世界に入る。

ア二メ・舞台など二次元、二.五次元が大好きな隠れオタクだと言うこと。

今は、アイドル育成ゲームの環くんを推していて、グッズやDVDを暇さえあれば見ている。

言えるはずがない、こんなオタクを見たら、引かれるに決まっている。

「あー、尊い」

「もう二次元行きたい」

自分の部屋で呟きながら携帯でアニメを見ていると、CMが流れていた。

それは、マッチングアプリのCMだった。

私はCMを見て、こう思った。
これだ!と即決断して、アプリをインストールして、基本情報だけ入力して、いいなと思う相手にボタンを押し続けた。

すると、写真なしの男性からメッセージがきた。

それから隠れオタクな私と絶滅イケメン達との理解不能なやりとりが始まる。

別の世界へ行ったような不思議な感覚に陥っていく。

・顔なしイケメン

顔なしイケメンからの最初のやりとりは、
出身地の話から入った。

僕は、山形出身です。

そうなんですね。私は生まれも育ちも宮城で、とたわいのない話で盛り上がる。

その日から毎日メッセージするようになった。

どんな仕事をしているのか、休みの日は何してるのかなど聞くと、男性の詳細プロフィールが出来ていた。

二十四歳 仕事はIT関連で、休みの日は、ドラマを見たり寝たりしているらしい。

彼女はしばらくいないから、マッチングアプリを使い始めた。

同い年だが、誠実そうで優しいイメージで顔は見たことがないが、イケメンでいい人なのだろうと思い込んでいた。

それから、一ヶ月経った頃、その人とのやりとりは楽しくなっていき、こないとソワソワしている自分がいた。

話の話題は、私が仕事の都合上、水族館に行くことになり、男性は宮城の水族館に行ったことがないらしい。

山形にある水族館は、クラゲが沢山あって
すごく綺麗らしい。

だから、一回宮城の水族館に行ってみたいという話になった。

男性とは、やりとりも1ヶ月経つし、行ってみようかなと誘うと、嬉しそうなスタンプがラインに送られてきた。

それから、男性と予定が合う日程を決めて、待ち合わせ場所まで決めた時、まだ写真交換していないことに気がついた。

私は男性にその旨をラインすると、すぐ返事が返ってきたが、今は立て込んでるので明日送りますと返信があった。

なので、私は明日まで男性の写真を待つことにした。

次の日

会社に行き、事務作業をひたすら行って、昼休みになった。

昼休憩は一時間で、その合間に携帯を見る時間が出来る。

まだ男性から連絡はない。

自分の写真、持ってないんだと思えた。

仕事も終わり、家に帰ったら、ラインがきていた。

すいません。
あともう少しで送れますので、待って下さいと返信がきた。

誠実でいい人だなと思いながら、私は夕飯を作って、テレビを眺めながらベッドで横になっていた。

すると、ブゥブゥと通知音が聞こえた。

男性からだった。

お待たせしました。
少し疲れているかもしれませんが、
これが俺です

とラインの内容を見てから、写真を開いた。

私は愕然としたのだ。

疲れてる顔と言っていたけど、どう見てもそれだけじゃない。

人生で初めて、人の顔見て、ベッドに携帯を投げ込んだのは。

私は親友にラインを送る。

やりとりしていた人と顔写真交換したけど、
携帯ぶん投げてしまう程の場合、どうすればいい?と私は聞くと、すぐに返信が返ってきた。

そんな酷かったの。そしたら、ブロックしたら?ときた。

私は親友のライン内容を見たら、またあの男性のラインを見返す。

携帯を遠ざけながら、男性の顔写真をもう一回見ると、鳥肌が立つように寒気がしてきた。

「あー、無理!無理に決まってんだろ。いい人だけどさ。あーー!もうダメだと」

私は独り言を言いながら、ベッドに横になり、親友に返信する。

無理だわ。生理的に無理ー! と私は自分と思ったことを口にする。

親友には生理的に無理ならダメじゃんと言われ、私はもう一回男性の写真を見返す。

恐る恐る男性の写真を見返すと、また鳥肌が立つ。

「だあー、無理!」

私は一人で頭をかきながら、男性のラインを見るのをやめて、親友に連絡する。

無理。もうラインブロックするわと返信して、すぐにきて、親友はそうしなというスタンプが送られてくる。

私はまた男性のラインを開き、ため息をついてから、両手で携帯を遠くにしてラインブロックした。

あー、これで終わった。
なんだったんだろう。
この一

私は燃え尽きたかのようにベッドに何も考えず、横になった。

ベッドの脇にあったぬいぐるみを持ち、自分の口元に近づけて、一人叫んだ。

なんなのよー、くそー!
なんだったんだ、この1か月はー!

結局、私は顔なしイケメンとどうなりたかったんだ。
結果、何もなかった。

でも、これだけではなかった絶滅イケメンに出会うのは……


・甘えイケメン


顔なしイケメンから2日後

ある男性とメッセージとやりとりした。

チャラい返信から始まり、私は時間があったので、適当に返事をした。

ヤッホーから入り、私はどうでもいいが、まあ、やりとりしないよりはいいかなと思い、返信を返す。

男性 名前なんていうんですか?

私 美樹(みき)です

とアプリ内では偽名をつかって、やりとりをしている。

男性 なんてお呼びしたらいいですか?

私 なんでもいいですよ。お好きにお呼びください

男性 じゃあ、美樹ちゃんで

それから、お互いの仕事の話から休みの日は何してるのかなど最初の顔なしイケメンと同じだ。

だが、根本的に違うことがあった。

それは、私に甘えてくるのだ。

仲良くなったので、ラインを教えると、
毎日ラインは頻繁にきた。

名前も本名を教えると、名前を変えただけの
由利ちゃん呼び。

由利ちゃん、今日何してた?
俺は今日休み!など

時間がある度、ラインがくる。
何かあると返信がきて、最初は良かった。

こんな頻繁にラインがくるのは初めてだったから、嬉しかった。

だけど、そんな長くは続かなかった。

ある平日の夜のこと。

私は部屋の片付けをしていた時、ブゥブゥと携帯の音がなった。

男性からだった。

それはLINEの音だった。

ラインする頻度をどうするかということを話していた。

私は別に毎日ラインしなくてもいい派で、きたら返信する。

男性は、毎日ラインしたいというのだ。

私はめんどくさくなってきた。

元々私はめんどくさがり屋ではっきり言って、男性とのやりとりは日常生活で支障がないくらいがちょうどいいのだ。

男性は私とは正反対だ。

男性から、毎日ラインしたいという。
うーん、困ったものだ。

どうしたらいいのだろう。
私は男性のラインを開いたまま、悩んでいると男性からまたラインがきた。

ねぇねぇ、まだ返事まだ?
由利ちゃんのこともっと知りたいなあ。

なになに、なんか迷ってる?

いきなり何件ものラインがきた。
私はライン開きっぱなしだったのだ。

返事がないので、まだ返事はー?

まだまだと男性は私の気持ちなど無視して、男性からラインがくる。

あー、私は自分の服を片付けようと持っていた服を握りしめて叫んだ。

「あー!どうしたら!」

私は一人で頭を抱えた。
すると、またラインがきた。

ねぇねぇ!

と返事をして欲しいのは分かるが、なんだ!

「少し待ってないのか、お前は」

と私はライン画面を握りしめて、怒り心頭に一人で呟く。

私は意を決して、ラインの返事をする。

お待たせしてすいません。
毎日ラインしてもいいですが、別に私は毎日じゃなくていいですよ

と返答をすると、すぐ既読ついて、返事がきた。

はあ?そんなこと言うの。
意味が分からねぇ。止めるわ

と男性からラインきて以来、返信なし。

「こっちが意味わかんねーよ!どういうことだよ!」

と一人ツッコミ、ため息をついた。

最初から変な人だなとか思ってたけど、
ちゃんと反応してくれるからいいと思ったのに、こんな奴だとは。

あー、うん、またかよ!

私はまさかマッチングアプリで二人連続で、こんな想いになるとは思わなかった。

マッチングアプリは、いい意味で面白く刺激的なサービスだけど、どんな相手か分からないのが怖い。


・誰かの顔と似ている男性

よし、また使ってみるか。
私は通勤途中で携帯を開いて、マッチングアプリをタッチした。

すると、誰からかメッセージがきていた。

はじめまして。
翔(かける)と申します。
お話ししましょう

と書かれていた。

年齢は二十四歳。やり取りし始めた。

私の写真は載せていない。
身バレされる危険性があるから。

だから、仲良くなった人しか写真交換していない。本当は顔を公開した方がやりとりもスムーズだし、男性が私の顔が好みじゃなかったら、拒否すればいいんだけど。

私は写真を交換しないことで、私の男性の好みのタイプの人とやりとり出来るので、写真を交換しなかった。

はじめまして。
美樹です。
こちらこそ、よろしくお願いします。

とはじめての方なので、丁寧に返した。

翔(かける)さんは親切な方だった。
ちゃんと話も聞いてくれるし、疑問に思ったら質問してくれる。

とても話しやすくて、紳士で気遣ってくれる。
今まで出会ってきた人より、はるかに優しい。

寒暖差激しいですけど、大丈夫ですか?
私は趣味がドラマ、映画など見ることなので、その話になると、興味持ってくれたり、なにがオススメか聞いてきたり、話しやすい。

やりとりして、二週間くらい経った頃、
時間あったら会わないかと誘われた。

まあ、時間あるからいいかと思えたが、私は考えた。
優しくて、話しやすいけど、何かが物足りない。うーんと考え込むと、私は思い出した。

そうだ、若干あの人に似てるんだ。
あの人とは、職場の先輩に。

私の職場は、インテリアを扱っている会社で、そこで私は事務をしている。

事務で関わっている先輩で、通称ポテトと言われている。
ポテトのように温かくて、優しい、でも、顔は普通。

今やりとりしている子は、可愛い顔をしているが、新しい写真を投稿したものがあった。

それをみて、確信した。
そんなポテト先輩と顔が似ている。
今まで見ていたのは横顔の写真、真正面に顔写真が載せていた。

横顔はうまく可愛く映れている。もしかして、少し化粧してたのかな。

真正面は、本当にポテト先輩。

嫌なわけではない、そう普通が一番。一番。一番。

私はその時、仕事帰りでバスに乗っていた。
携帯を握りしめて、写真を見る。

あー、ポテト先輩。
ポテト先輩。

ポテト先輩。

私は携帯の電源を切った後、考え込んだすえ、
アプリのメッセージからブロックしてしまった。

いい人なんだけど、うーんと考え込んだ。
自分と一緒に歩くイメージが湧かない。

いい人という理由では、私はピンとこないのだ。
それから、ポテト先輩に似た人とはやりとりしなくなった。

私はお互いに刺激し合い、高められる人と付き合いたい。

そうする為には、自分磨きをする必要がある。

私は自分と向き合い、変わろうとしていた。だけど、アプリを続けながら、いい人を見極めるのは難しかった。

アプリ内のプロフィールを変えて、身バレが怖かった写真も載せた。

それから、私は男性からいいね!をされることが多くなった。

私の好みのタイプとは違かったけど、前よりマシと言ったら酷いが、マシな人とマッチングするようになった。

プロフィールを変えただけだけど、こんなにマッチする人が違くなるとは思わなかった。

アプリを始めてから、八か月が経っていた。

ポテト先輩以降、いろんな人とやりとりして、二カ月に一回アプリの人と会った。

バーテンダー、会社員、公務員、医療関係の事務員など。

だけど、やりとりは短期間で終わる。
それか、会って終わるパターンが多かった。

終わる度、私はため息をついて、親友・理恵とラインをした。

数ヶ月経つと、あの人と会うことになるなんて。

自分の考え方を変えようとしても、絶滅イケメンとはうまくいかなかった。

私は誰とも会うことはやめた。

マッチングしても、会いたい人がいなかったから。

だけど、ある日いたんだ。あの人に出会って変わっていく。

いい意味でも悪い意味でも……