見失うばかりの僕ら

 退院してから何度か海を見に行く。
 未曾有の大災害によって引き起こされた津波は、今や跡形もなく消えている。
 あれだけ被害を被ったというのに、俺は生きてる。
 被災した側なんだけれど、生きていることもあるのかと驚く。
 死ななくてよかった。
 何度かリアルな夢を見た。
 今となっては思い出せないけれど、何度も同じ時間を繰り返したよう。
 ずっと死んでいたし、その度に怖かったし、生きていたいと思った。
 この海に飲まれたくない。
 倒壊した建物の下敷きになりたくない。
 土砂に巻き込まれたくない。そして、巻き込まれた。
 体を丸めて顔を伏せて背中から土砂にぶつかる。
 気を失ったその後であなたを想った。
 どうか、生きていてほしい、と。
 俺もまた生きてたらもう一度会いたい、と。
 叶うことになるとは思わなかった。
 日頃の生活が良かったからなのかもしれない。
 学校をたまにサボり、部活をサボり、海に来て、この音を感じる。
 自分の気持ちによってはうるさく聞こえてたり、心地よかったりする。
 あ、そだ。位置情報アプリの位置情報を解除しよう。
 雨宮がうるさいから入れたアプリだけれど、あまり使う機会もないわけだし。
 通知の設定もしていなかったせいか、五分後にはDMでスタンプを連打してくる。
 今から来ようとでもしているのか。
 海にぶち込んでびちょびちょにしてやろう。
 悪いことを考える。
 柊は『死ぬなよー』と連絡を送ってきた。
 あいつは今、めちゃくちゃ自由に生きている。
 まさか学校サボって映画行くとは思わない。
 今まで学校サボることさえ許さなかったバカ真面目なやつだった。
 これまでずっと映画も行かずに勉強や部活に励んでいたと思うとやはりバカ真面目なやつだなと思う。
 少しくらい自分の気持ちに素直になるのもいい。
 うまく行かないことばかりなのだから。
 父親と会話をしていてももう俺は子供としてみてくれていないと気づいても。
 母親が俺に心配かけまいと仕事を探し始めたことも。
 いいことなのだと思って生きていく。
 問題が出たらまたこうやって海に行くのもありだろう。
 元からまともな生き方なんてできない逸れ者たち。
 どこかに気持ちをぶつけないと壊れてしまうことばかり。
 呪いたくなるほどに憎んだ相手だって、いつかは手を取り合えたり、分かり合えたりするはず。
 命に優劣はなくとも、家庭には優劣がある。
 幼い頃に離婚した家庭、離婚せずとも苦しい環境である子供。
 それでもどうにか生きている。
 生きていられる理由がある。
 理由なんてもの、探す必要もない。
 だって、疲れるから。
 無理しなければいいんだと思う。
 あなたを思う誰かがいないと思うのならいないだろう。
 でも一人で生きてる強いやつだっている。
 そんなこと考えだしたら、自分の気持ちを蔑ろにする。
 おざなりな行動をとって尚更後悔して、無様な姿を晒すだけ。
 だったらちょっとくらい人の評価から離れるのもいいじゃないか。
 周りが進学するからって進学する必要なんてないのだから。
 就職したら進学組のエンジョイしているインスタのストーリーに苦しくなるなんてどうでもいい。
 やんなきゃいいさ。
 自分の生き方に素直であれば、いつか思ったような生き方ができるんじゃないだろうか。
 少なくとも俺は、この街の復興に協力したい。
 ボランティアがどうした。
 どうでもいい。
 全部壊れたならゼロから始める。
 解決なんて後付けでいい。責任なんて今考える必要ない。
 やってみたらいい。行動してみたらいい。
 その先でようやく見つけたものを抱きしめればいい。
 ほら、雨宮が走ってやってくる。
 少し前とは変わった関係性。
 抱きついてきた彼女を抱き止める。
 めちゃくちゃ重い体を受け止めれるのは俺だけだ。
 伝えなきゃ始まんない。
 大切にしたい彼女を想うのなら。
 あなたのいるこの世界で生きていたい。
愛を知ったこの世界で人のことは気にせずに。
きっと本当は俺が愛を知るための物語だったのかもしれない。
これからは愛を知ったこの世界を愛したい。