「マチアプの男に沼る前に阻止できて良かった」


そう呟いた俺の声は周囲の人々のざわめきでかき消される
いつもより可愛い格好をしているみあ
誰にも渡したくない


まさかマッチングアプリを始めるほどだとは俺も想像できていなかった
それを知ったのは先日、偶然にもみあが落としたスマホを拾ったからだ


検索欄に並んでいた文字たち
🔎マッチングアプリの始め方
🔎おすすめのマッチングアプリ
🔎マッチング相手との会話のしかた


何もみていない風を装いスマホを返す
落ちた反動で電源がオフになっていた体でみあに手渡した
家に帰って俺もマッチングアプリをダウンロードする
みあの好みは知っているつもりだ


マッチングすれば彼女には悪いが最低な男を演じてマッチングアプリから遠ざける
マッチングしなければデート当日に相手の男をみあから遠ざける


後者だとみあにバレないよう立ち回るのは少し難しいなと考えながら、どうか前者でありますようにと願う


登録が簡単でおすすめマッチングアプリNo.1のこのアプリ
みあが登録するのはこれしかないと考えている


少しでも河原那央を悟られないようにフリーアイコンを使った
鼻からワオ!なんて初見ではふざけてるような名前に見えるかもしれないが、実は本名のアナグラム
自分だとバレたくはないくせにやってしまった


女の子が嫌がりそうな、笑を多用してみたり
やりとりの途中で違和感や気持ち悪さを感じて退会してもらうために、住みを聞いてみたり
そこから話を膨らませてみたり


ブロックされたらとヒヤヒヤしたが、みあは疑いもせず話を合わせてくれる
住んでる場所だけ実際の住所ではない場所を送ってくれていた


住所はとっても大切な個人情報だから
いくら相手が俺だとしても画面越しのみあにはわからないから
見知らぬ男に住所を教えなくて安心した


会ってみたいと送ってみると少し間はあったものの日時の提案までしてくれた
お昼時に会う約束をつける


当日は俺が偶然を装いみあに声をかけるつもりだから、店の予約はしない
クズ男を演じるには店を予約していたり、集合場所を決めていたりする方がいいだろう


『13時に岩尾って名前で予約したから当日はここ集合で』

『ありがと♡
ランチ楽しみ~♪』


店のリンクと集合場所のリンクを送った
するとなんとも可愛らしい返信が送られてくる


当日はみあよりも早く着いた
時間ちょうどか前だと約束があるからと断られる
みあは当たり前かもしれないが、知り合いよりも早く先に約束した人を優先する
だから約束した時間よりもあとにするべきだ



『ワオさん、今日のご都合悪くなったりしましたか?』

『あ、ごめんねみあちゃん。
すっかり連絡するの忘れてたけど、今日はなしで!
また機会があったら出かけよう』


そうこうしているとみあから連絡が入る
最低なドタキャン男を演出できただろうか
みあを傷つけたことに良心が痛みつつもブロックをする


そして、偶然を装いみあに話しかけた
会社は土曜だから午前出勤。もう退勤してこれからお昼なんだと説明する
友だちのさやかちゃんとの待ち合わせ?と聞くと事のあらましを教えてくれた


みあ本人からさやかちゃんの話しは聞いたことなかったから突っ込まれたらどうしようかと思ったけど、問い返されることはなかった


スマホをだしてもらって、アカウントを削除し退会
アンインストールした


みあのことブロックしてた酷い男だと伝え、マッチングアプリはしないことを約束させる


せめて、俺と付き合ってから決めてほしい
まぁ付き合った時点で別れる気はちっともないから今後みあがマッチングアプリをダウンロードすることはないだろうけど


まだこの想いは伝えていない
確実に振り向かせたらもう二度と離さない
いや、離せない
だから今は勉強や就職活動を頑張ってほしい


それじゃあ今日は、俺と昼食べに行くかと提案する
俺が演じた男なんて頭の片隅に追いやって、何なら忘れて、今はとりあえずお昼に心を踊らせていてほしい
罪滅ぼしで俺の奢りだから



Fin