「さやー、見てこれ!すごいでしょ」


大学の講義と講義の間の休み時間に友だちの古瀬(ふるせ)彩香(さやか)にとあるスマホの画面を見せる


「なにそれー......って、はあ?!」


視線が一気に私たちへ集まる
休憩時間とはいえ学生が大勢いるこの講義室
ここで注目を集めるほどの声量を出さなくちゃいけないほど驚くことだろうか



「すみませーん。何でもないです」



全体に向けて謝り、私にだけ聞こえる声でさやは続けてしゃべる



「これ、みあどうしたの?」

「みたまんまだよ?今度の土曜日に合うの!」

「ん~~、これまたなんで始めたの?」



理由としては先日、さやが大学に来ていなかった日まで遡る



「もう20歳過ぎても彼氏の1人もいないとか喪女確定だよね」
「あ、それわかるわ~」
「マチアプで男探せばいいのにねぇー」
「いや、それな~」



ちょうど私の後ろの席の学生が喋っていた内容
喪女って言葉を知らなくて調べてみると、『恋愛や結婚に縁がない女性を指す』とあった

今までいなくても今作ればセーフだろう!ということで入れてみたものはマッチングアプリ
どうやらいろいろ登録していくと、相手とのマッチング度合いを表示してくれるようになるみたいだとわかった


早速マッチングした相手が、鼻からワオ!さんだった
マッチング度合いは87%
6割以上だといいなとは思っていたけど8割越え


明らかに仮名であろうことは一目瞭然
アイコンは手元が映っているのみ
ネットリテラシーが高そうな人だと予想する


『マッチしました!みあって呼んでください♪』


私からすれば初めてのマッチング相手
だけど相手からすれば数いるマッチング相手の1人かもしれない
返事なんて来ないかもななんて考えていたら通知が届いた


『みあちゃん初めまして~
俺のことはワオとでも呼んでもらえれば笑笑
早速なんだけどさ、みあちゃんってどこ住み?』


いきなり住んでいる場所を聞かれて嫌だなとは思ったけど、マッチングアプリ内ではこれが当たり前の世界なのかもしれない


『えっと、○✕に住んでるよ』

『おっ、俺たち住み近いね笑笑』


なるべく家から遠いけど行ったことのある場所を送るとすぐに返信があった
本当の住所ではないから近くはないけど話を合わせながらやりとりを続けていく


『みあちゃんさえ良ければなんだけど、今度会わない?』

『えぇ......!』


マッチングアプリはチャットでやりとりをするだけではなくて実際に会ってみなきゃ始まらないんだったななんて気づかされる


『直近だと次の土曜日は空いてます!
ワオさんはどうですか?』

『俺もその日は暇してる笑笑
お店の予約しておくからリンク後で送らせて』


お店の予約までしてくれるなんてなんてスマートなんだろう


『13時に岩尾って名前で予約したから当日はここ集合で』


と送られてきていたリンクは少しお洒落なお店だった



「・・・・・・ってことなんだね?」

「うん」



さやにはマチアプの男なんかやめときなといわれる
けど約束しちゃったし、すっぽかすのは相手に悪い


さやと話し合った末、結局待ち合わせ場所に行くことにした
もしも相手が集合場所に来なかったら来なかったらマッチングアプリやめることを約束に


ピンクブラウンのとろみブラウスにリボンボウタイを
ブラウスはピンタックデザインになっていて、タイトスカートを合わせるとフェミニンだけど可愛いの
小ぶりのバッグにパンプスを履くと家を出た


電車にゆらゆら揺られついた先、待てど暮らせど相手は来ない
私の服装は伝えてあるのにワオさんはまだ着いていないのだろうか


『ワオさん、今日のご都合悪くなったりしましたか?』

『あ、ごめんねみあちゃん。
すっかり連絡するの忘れてたけど、今日はなしで!
また機会があったら出かけよう』


プロフィールに23歳の社会人ってあったから土曜出勤とかだろうか?
今は12時30分を少し回ったところ


出勤ってわかった時点で連絡ほしかったよ
連絡入れたら返信がすぐにあったのはお昼休憩とかだろうか


私に連絡入れてないってことはお店にも連絡入れてないってことだよね
当日だからキャンセル料も払わないと


電話をお店にかける
お昼時の忙しい時間に申し訳ありませんと伝えた上で、予約キャンセルの旨を続ける


「本日13時、岩尾さまでご予約さているテーブルはございませんが......」

「そう、ですか。ありがとうございます」



失礼しましたと電話を切る
手切れ金にキャンセル料は払おうと思っていたけど、予約すらしていなかった
良かったのか悪かったのか



「あれ、みあ?」

「え、那央くん?スーツってことは仕事?」



近所の2つ年上のお兄さん
小さい頃は那央くんにべったりだったらしい私
全く記憶にないけど


義務教育の中学までは同じで高校と大学はお互い違う学校
それもあってか会うのは本当に久しぶりだった



「誰かと待ち合わせ?さやかちゃんだったっけ?」

「あー、んーと」

「言いたくないなら良いから来るまで一緒にいてい?」

「というか、来ないかも的な」


あははと笑いながら事の経緯を話す
するとスッと手のひらを出してきた那央くん
何のことかわからなかったけど、スマホだしてということらしい


というか、那央くんにさやの話をしたことあったかな?
私が話してなくても親伝いってこともあるか
そう結論付けた


大人しく渡すと、なれた手付きでアプリを開きポチポチポチと操作する
返ってきたスマホにはマッチングアプリはアンインストールされていた


アカウントを削除とか退会とかの操作をしてくれていたのだろう
ありがたいや


「これから昼いくけど、みあも一緒に行くか?」


どうやら那央くんの会社は土曜の勤務時間が5時間みたい
人によって出勤時間は異なっているらしいけど那央くんはお昼までで退勤だと教えてくれた


スマホで近くのお店を検索する
ランチができそうなお店は......
あった!


「那央くん、このお店は?」

「行こう。今日は俺が奢るからたくさん食べな」


いっぱい食べてもあとで運動してカロリー消費すれば良いんだもんね
甘えていっぱい食べよっと
ルンルン気分で那央くんの後ろを歩く



「みあ、可愛いんだから離れて歩かず隣においで」


振り返った那央くんが、私の手を握り自身の隣へ誘導する
というか、今、私、可愛いって言われたよね!?
那央くんってそんなこと言うかんじだったっけ?!


ちらりと那央くんを見上げれば、「ん?どうしたの?」と甘いマスクで優しく問いかけてくる
ドキリと心臓が跳ねた気がする
那央くんは心臓に悪いなんて今に始まったことではない
だから平常心を保たなければ


平常心、平常心───



既にマッチングアプリの男のことは頭の隅に追いやっている
深呼吸をしながら、那央くんにシフトを入れ換え
ランチに胸を踊らせる



Fin