桜が咲き始め、風が暖かくなり始めた季節。
あれから私は高校を卒業し、すぐに裕也先輩と同棲を始めた。
大地くんとの思い出だ詰まった実家の私の部屋には今だに入るのに勇気がいる。
もう付き合って7年も経つのにね。
大地くんから離れてからは8年。
結婚の話も出ていて、お互いの両親とも挨拶を済ませて、来月には式を上げる予定だ。
「いよいよ、来月だねー!」
私の隣で笑う裕也先輩の笑顔はあの頃と変わらない。
「うん!そうだね!」
「じゃあ、また明日式の打ち合わせあるから早めに寝よっか。」
「そうだね!じゃあおやすみ!」
私は頭まで布団を被った。
もうすぐ私も結婚か。
意外と早かったな。
この7年いっぱい喧嘩もしたし、別れようって思ったこともあったけどなんだかんだ楽しかったな。
家族仲の悪い私の家族とも裕也先輩は上手くやっていってくれてるし、本当に感謝しかないな。
でも、心に空いた穴はそう簡単に埋まることはない。
時間が解決してくれるなんて嘘だったよ。
やっぱり1人になった時に思い出す人は私の中で決まっている。
大地くんなにしてるのかな。
まだ瑠奈と続いてるのかな。
あの日から私と瑠奈は一切連絡を取っていない。
別れてたらいいな。
自分の中の悪い心がそう言っている。
高校の時から裕也先輩呼びのままで皆んな違和感を覚えているかもしれない。
裕也先輩にも呼び捨てで呼んでよって言われたけど、大地くんが私のことを好きだった頃の自分を少しでも変えたくなかった。
だから、大地くんと会ってた頃に行ってたコンビニでは必ずと言っていいほどホットのレモンティーを買ってしまう。
大地くんに依存してた自分から何も変われてない。
結局大地くんのこと忘れられてないまま結婚まで話進んじゃって、いいのかなこのままで。
裕也先輩のことは大好きだし、結婚したいって思う。
今も隣で眠っている裕也先輩の寝顔が愛おしくて仕方がない。
きっとどうにかなるよね。
私なら大丈夫だよね。
もう考えるのやめて眠ろう。
私はそう自分に言い聞かせて、無理矢理目を瞑った。
太陽が昇り鳥の囀りが聞こえる。
朝目が覚めると裕也先輩はもう準備を始めている。
「あ、起きた?早く準備しないと間に合わないよーー」
「裕也先輩起きるの早いなー」
「そうかな?もう9時くるよ?」
私はふと時計に目をやると針は8時56分を指している。
「え、打ち合わせって何時からだっけ?」
「10時半からだよーー」
「あと1時間しか準備する時間ないじゃん!急がないと!」
私は急いで準備を済ませ打ち合わせ場所へと急いだ。
「ギリギリだったねー!」
裕也先輩が朝起こしてくれなかったからじゃんか。
清々しい顔でそう言う裕也先輩に少し腹を立てながらも話し合いは進んでいく。
「ねえみて!このドレス可愛い」
そう言って裕也先輩が指さしたのはピンクのキラキラしたドレスだった。
「ピンクとか私に似合うかな…」
「このカラーは今年1番人気のカラーですよ。」
不安そうな私を気遣ってかプランナーさんが笑顔でそう言ってくれた。
「プランナーさんもそう言ってるし、これ着て欲しい!」
「裕也先輩がそう言うなら、。」
裕也先輩とプランナーさんの押しに負け私はそのドレスに決めた。
式場を見学したり、披露宴の段取りをしたり大忙しだ。
それから1時間ほど話し合い私たちは打ち合わせ場所を後にした。
「俺今からちょっと仕事あるからさ優奈ちゃんはお家帰っとく?」
「じゃあ一回帰ろっかなー。」
裕也先輩は私のことを家でおろし、すぐに仕事へと出かけてしまった。
1人でなにしようかな。
最近運動不足だし、散歩でもしようかな。
結婚式も近いし、ちょっとでも痩せてて損はないよね!
私は普段滅多に運動をしないがどう言うわけか散歩に出かけた。
道沿いには綺麗な桜が咲いている。
私が式を挙げる頃にはもう散っちゃうのかな。
そう思うと少し寂しいな。
そんなことを考えているうちに気づけば海の方まで歩いてきてしまっていた。
確かここ大地くんとよく会ってた公園の近くだ。
ちょっと寄ってみようかな、。
私の足は自然とその公園に向かっていた。
約8年ぶりにその公園に行く私だが道は体が覚えているようで、迷わなかった。
曲がり角を曲がってすぐ懐かしい公園が広がっている。
いつも大地くんと座っていたベンチはあの頃より少し汚れが目立つが変わらないままだ。
私はそのベンチの汚れをはたきあの頃と同じ場所に座る。
懐かしいな。
大地くんとよくこのベンチに座って話してたな。
そんな干渉に浸っていると私の視界の端に綺麗な何がか映り込んだ。
なんだろう。
私が自分の足元に視線を移すと前までは何も無かった花壇の中に一輪だけ綺麗な花が咲いている。
透き通るほど綺麗な純白で鈴のように丸みのある花。
なんて言う花だろう。
私がその花に魅了されていると通りかかった優しそうな目をした杖をついたおばあさんに声をかけられた。
「お嬢さん、その花は鈴蘭って言うんだよ。」
笑顔でそう教えてくれるおばあさんの顔はどこか寂しそうな顔をしていた。
「あ、そうなんですね!お花とか全然詳しくなかって、笑」
「最近の子はお花とかわからないものよね笑鈴蘭の花言葉って知ってるかい?」
花言葉、?
「知らないです。」
少し首を傾けてそう言う私におばあさんは微笑みながら話してくれる。
「鈴蘭の花言葉はね、再び幸せが訪れるって意味があるんだよ。」
「素敵ですね。」
再び幸せが訪れるか、。
「でもね鈴蘭の葉っぱの部分には毒があって口にしたら亡くなっちゃう事もあるんだよ。怖いよね。花言葉はこんなに素敵なのにね。」
「そうなんだ…。全然知りませんでした。」
私は鈴蘭が自分の人生のように感じた。
お花には再び幸せが訪れるって言う素敵な意味があって、葉っぱには人間を死なせてしまうくらいの毒がある。
死にたいくらい辛い思いしないと幸せにはなれないってことなのかな、。
今まで私は大地くんのことでいっぱい苦しんだ。
離れた今も尚思い出して苦しんでいる。
私ももう幸せになってもいいよね。
大地くんの呪縛から解放されてもいいよね?
「お嬢さんはこんなところで1人で何してるんだい?」
「ちょっとお散歩に来ただけです笑」
「そうかい、気をつけて帰るんだよ、ここら辺は暗くなるのが早いからね。」
「ありがとうございます。」
そういいおばあさんは公園を後にした。
そろそろ私も帰ろうかな。
公園にある古びた時計。
その時計はあの頃と変わらず動き続けている。
もうすぐ17時になる。
私も公園を後にしようとした、その瞬間だった。
「優奈、?」
私はとっさに後ろを振り返る。
そこにいたのは大地くんだった。
大地くんの口がゆっくりと動く。
「優奈だよね…?」
私は静かに頷いた。
なんでこんな時に会っちゃうかな。
私の前に現れないでよ。
早く忘れさせてよ。
嫌いにさせてよ。
「俺ずっと優奈に謝りたかったんだ。あの時は本当にごめん。」
今更だよ。
もう8年も経ったよ。
「大地くんには瑠奈がいるでしょ?」
私がそう言うと大地くんはバツが悪そうな顔をして俯いた。
「もうお互い違う人のものなんだよ。そろそろ前に進もうよ。」
私の言葉に大地くんは今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。
離れた距離からでもわかるほど顔を真っ赤にしている。
「今からでも俺のところ戻ってきてくれないかな、?」
大地くんが鼻を服の裾でぬぐいながらそう言った。
私の心臓は大地くんにも聞こえてるんじゃないかなってくらい大きな音で鳴っている。
でももう遅いよ。
そんなことを思いながらも大地くんの言葉に心揺らぐ私がいる。
「悪いけど、私来月結婚するの。」
私は少し強がってみせた。
未練なんかない。そう思わせたかったから。
その私の言葉に大地くんは驚いた表情を見せた。
だがすぐに表情を戻し、微笑みながら私に語りかける。
「そうか、相手は裕也か?」
私は大地くんの目を見て頷いた。
「そっか、幸せにしてもらえよ。」
そう言って微笑む大地くんの笑顔は昔と同じどこか切なさを感じた。
「うん、。」
あの頃と全然変わってないじゃん。
「じゃあな」
そういい私に手を振り帰ろうとする大地くんの背中はあの頃とは違ってすごく小さく見えた。
「ねえ!一つだけ教えてあげる。」
私はそんな大地くんの背中に向かって叫んでいた。
大地くんは私の方を振り返り首を傾げる。
「あそこに咲いてる花あるでしょ、鈴蘭って言うんだけどね、花言葉は再び幸せが訪れるって意味なんだよ。」
大地くんは少しドキッとした様子だったが笑顔を保ったままだ。
「そうか。」
「でも気をつけてね、葉っぱのところには毒があるから。」
「わかった。気をつける。」
「あと、今日会ったことと話したことは皆んなには秘密ね。2人だけの。」
「おう。」
「じゃあね、それだけだから。」
「おう。」
まだ何か言いたげな表情をしていた大地くんを後に私は足早に公園を後にした。
最後に何が言いたかったんだろう。
ちゃんと聞いてあげてもよかったかな。
だが今となっては知る余地もない。
溢れ出しそうな涙を抑え私は家に帰った。
今日のことは裕也先輩には秘密。
ちょっと罪悪感はあるけど私と大地くんだけの秘密だから。
2人だけの最後の秘密だから。
絶対に誰にも言わない。
裕也先輩にその事がバレる事もなく、1ヶ月後私と裕也先輩は無事式を挙げた。
私の手に持っている花束の中には一際目立つ鈴蘭の花が一輪だけ入っている。
みんなが祝福してくれて、本当に幸せな瞬間だった。
もちろん親友代表スピーチは佳穂が務めてくれた。
本当だったらそこに立っていたのは瑠奈だったのかな?
博樹さんの話によるとその3ヶ月後大地くんも結婚したらしい。
相手は瑠奈だ。
私と裕也先輩が味わったあの幸せな瞬間をあの2人も味わったのだろうか。
もしもあの時大地くんと復縁していたら、今貴方の隣に立っているのは私だったのだろうか。
今も貴方からの愛をもらっていたのは私だったのだろうか。
昔の私ならきっと笑顔で貴方の幸せを祝福できなかっただろう。
今の私は大地くんの幸せを笑顔で祝福できるよ。
でも、ちょっとほんのちょっとだけ後悔してる。
復縁してもよかったかなって。
あの時復縁してたら私たちの未来はどんな風に変わっていたのかな。
私の人生で1番大好きだった人。
今日で本当に本当に貴方のことを思い出すの最後にするね。
貴方との思い出に鈴蘭を贈ります。
さようなら。
あれから私は高校を卒業し、すぐに裕也先輩と同棲を始めた。
大地くんとの思い出だ詰まった実家の私の部屋には今だに入るのに勇気がいる。
もう付き合って7年も経つのにね。
大地くんから離れてからは8年。
結婚の話も出ていて、お互いの両親とも挨拶を済ませて、来月には式を上げる予定だ。
「いよいよ、来月だねー!」
私の隣で笑う裕也先輩の笑顔はあの頃と変わらない。
「うん!そうだね!」
「じゃあ、また明日式の打ち合わせあるから早めに寝よっか。」
「そうだね!じゃあおやすみ!」
私は頭まで布団を被った。
もうすぐ私も結婚か。
意外と早かったな。
この7年いっぱい喧嘩もしたし、別れようって思ったこともあったけどなんだかんだ楽しかったな。
家族仲の悪い私の家族とも裕也先輩は上手くやっていってくれてるし、本当に感謝しかないな。
でも、心に空いた穴はそう簡単に埋まることはない。
時間が解決してくれるなんて嘘だったよ。
やっぱり1人になった時に思い出す人は私の中で決まっている。
大地くんなにしてるのかな。
まだ瑠奈と続いてるのかな。
あの日から私と瑠奈は一切連絡を取っていない。
別れてたらいいな。
自分の中の悪い心がそう言っている。
高校の時から裕也先輩呼びのままで皆んな違和感を覚えているかもしれない。
裕也先輩にも呼び捨てで呼んでよって言われたけど、大地くんが私のことを好きだった頃の自分を少しでも変えたくなかった。
だから、大地くんと会ってた頃に行ってたコンビニでは必ずと言っていいほどホットのレモンティーを買ってしまう。
大地くんに依存してた自分から何も変われてない。
結局大地くんのこと忘れられてないまま結婚まで話進んじゃって、いいのかなこのままで。
裕也先輩のことは大好きだし、結婚したいって思う。
今も隣で眠っている裕也先輩の寝顔が愛おしくて仕方がない。
きっとどうにかなるよね。
私なら大丈夫だよね。
もう考えるのやめて眠ろう。
私はそう自分に言い聞かせて、無理矢理目を瞑った。
太陽が昇り鳥の囀りが聞こえる。
朝目が覚めると裕也先輩はもう準備を始めている。
「あ、起きた?早く準備しないと間に合わないよーー」
「裕也先輩起きるの早いなー」
「そうかな?もう9時くるよ?」
私はふと時計に目をやると針は8時56分を指している。
「え、打ち合わせって何時からだっけ?」
「10時半からだよーー」
「あと1時間しか準備する時間ないじゃん!急がないと!」
私は急いで準備を済ませ打ち合わせ場所へと急いだ。
「ギリギリだったねー!」
裕也先輩が朝起こしてくれなかったからじゃんか。
清々しい顔でそう言う裕也先輩に少し腹を立てながらも話し合いは進んでいく。
「ねえみて!このドレス可愛い」
そう言って裕也先輩が指さしたのはピンクのキラキラしたドレスだった。
「ピンクとか私に似合うかな…」
「このカラーは今年1番人気のカラーですよ。」
不安そうな私を気遣ってかプランナーさんが笑顔でそう言ってくれた。
「プランナーさんもそう言ってるし、これ着て欲しい!」
「裕也先輩がそう言うなら、。」
裕也先輩とプランナーさんの押しに負け私はそのドレスに決めた。
式場を見学したり、披露宴の段取りをしたり大忙しだ。
それから1時間ほど話し合い私たちは打ち合わせ場所を後にした。
「俺今からちょっと仕事あるからさ優奈ちゃんはお家帰っとく?」
「じゃあ一回帰ろっかなー。」
裕也先輩は私のことを家でおろし、すぐに仕事へと出かけてしまった。
1人でなにしようかな。
最近運動不足だし、散歩でもしようかな。
結婚式も近いし、ちょっとでも痩せてて損はないよね!
私は普段滅多に運動をしないがどう言うわけか散歩に出かけた。
道沿いには綺麗な桜が咲いている。
私が式を挙げる頃にはもう散っちゃうのかな。
そう思うと少し寂しいな。
そんなことを考えているうちに気づけば海の方まで歩いてきてしまっていた。
確かここ大地くんとよく会ってた公園の近くだ。
ちょっと寄ってみようかな、。
私の足は自然とその公園に向かっていた。
約8年ぶりにその公園に行く私だが道は体が覚えているようで、迷わなかった。
曲がり角を曲がってすぐ懐かしい公園が広がっている。
いつも大地くんと座っていたベンチはあの頃より少し汚れが目立つが変わらないままだ。
私はそのベンチの汚れをはたきあの頃と同じ場所に座る。
懐かしいな。
大地くんとよくこのベンチに座って話してたな。
そんな干渉に浸っていると私の視界の端に綺麗な何がか映り込んだ。
なんだろう。
私が自分の足元に視線を移すと前までは何も無かった花壇の中に一輪だけ綺麗な花が咲いている。
透き通るほど綺麗な純白で鈴のように丸みのある花。
なんて言う花だろう。
私がその花に魅了されていると通りかかった優しそうな目をした杖をついたおばあさんに声をかけられた。
「お嬢さん、その花は鈴蘭って言うんだよ。」
笑顔でそう教えてくれるおばあさんの顔はどこか寂しそうな顔をしていた。
「あ、そうなんですね!お花とか全然詳しくなかって、笑」
「最近の子はお花とかわからないものよね笑鈴蘭の花言葉って知ってるかい?」
花言葉、?
「知らないです。」
少し首を傾けてそう言う私におばあさんは微笑みながら話してくれる。
「鈴蘭の花言葉はね、再び幸せが訪れるって意味があるんだよ。」
「素敵ですね。」
再び幸せが訪れるか、。
「でもね鈴蘭の葉っぱの部分には毒があって口にしたら亡くなっちゃう事もあるんだよ。怖いよね。花言葉はこんなに素敵なのにね。」
「そうなんだ…。全然知りませんでした。」
私は鈴蘭が自分の人生のように感じた。
お花には再び幸せが訪れるって言う素敵な意味があって、葉っぱには人間を死なせてしまうくらいの毒がある。
死にたいくらい辛い思いしないと幸せにはなれないってことなのかな、。
今まで私は大地くんのことでいっぱい苦しんだ。
離れた今も尚思い出して苦しんでいる。
私ももう幸せになってもいいよね。
大地くんの呪縛から解放されてもいいよね?
「お嬢さんはこんなところで1人で何してるんだい?」
「ちょっとお散歩に来ただけです笑」
「そうかい、気をつけて帰るんだよ、ここら辺は暗くなるのが早いからね。」
「ありがとうございます。」
そういいおばあさんは公園を後にした。
そろそろ私も帰ろうかな。
公園にある古びた時計。
その時計はあの頃と変わらず動き続けている。
もうすぐ17時になる。
私も公園を後にしようとした、その瞬間だった。
「優奈、?」
私はとっさに後ろを振り返る。
そこにいたのは大地くんだった。
大地くんの口がゆっくりと動く。
「優奈だよね…?」
私は静かに頷いた。
なんでこんな時に会っちゃうかな。
私の前に現れないでよ。
早く忘れさせてよ。
嫌いにさせてよ。
「俺ずっと優奈に謝りたかったんだ。あの時は本当にごめん。」
今更だよ。
もう8年も経ったよ。
「大地くんには瑠奈がいるでしょ?」
私がそう言うと大地くんはバツが悪そうな顔をして俯いた。
「もうお互い違う人のものなんだよ。そろそろ前に進もうよ。」
私の言葉に大地くんは今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。
離れた距離からでもわかるほど顔を真っ赤にしている。
「今からでも俺のところ戻ってきてくれないかな、?」
大地くんが鼻を服の裾でぬぐいながらそう言った。
私の心臓は大地くんにも聞こえてるんじゃないかなってくらい大きな音で鳴っている。
でももう遅いよ。
そんなことを思いながらも大地くんの言葉に心揺らぐ私がいる。
「悪いけど、私来月結婚するの。」
私は少し強がってみせた。
未練なんかない。そう思わせたかったから。
その私の言葉に大地くんは驚いた表情を見せた。
だがすぐに表情を戻し、微笑みながら私に語りかける。
「そうか、相手は裕也か?」
私は大地くんの目を見て頷いた。
「そっか、幸せにしてもらえよ。」
そう言って微笑む大地くんの笑顔は昔と同じどこか切なさを感じた。
「うん、。」
あの頃と全然変わってないじゃん。
「じゃあな」
そういい私に手を振り帰ろうとする大地くんの背中はあの頃とは違ってすごく小さく見えた。
「ねえ!一つだけ教えてあげる。」
私はそんな大地くんの背中に向かって叫んでいた。
大地くんは私の方を振り返り首を傾げる。
「あそこに咲いてる花あるでしょ、鈴蘭って言うんだけどね、花言葉は再び幸せが訪れるって意味なんだよ。」
大地くんは少しドキッとした様子だったが笑顔を保ったままだ。
「そうか。」
「でも気をつけてね、葉っぱのところには毒があるから。」
「わかった。気をつける。」
「あと、今日会ったことと話したことは皆んなには秘密ね。2人だけの。」
「おう。」
「じゃあね、それだけだから。」
「おう。」
まだ何か言いたげな表情をしていた大地くんを後に私は足早に公園を後にした。
最後に何が言いたかったんだろう。
ちゃんと聞いてあげてもよかったかな。
だが今となっては知る余地もない。
溢れ出しそうな涙を抑え私は家に帰った。
今日のことは裕也先輩には秘密。
ちょっと罪悪感はあるけど私と大地くんだけの秘密だから。
2人だけの最後の秘密だから。
絶対に誰にも言わない。
裕也先輩にその事がバレる事もなく、1ヶ月後私と裕也先輩は無事式を挙げた。
私の手に持っている花束の中には一際目立つ鈴蘭の花が一輪だけ入っている。
みんなが祝福してくれて、本当に幸せな瞬間だった。
もちろん親友代表スピーチは佳穂が務めてくれた。
本当だったらそこに立っていたのは瑠奈だったのかな?
博樹さんの話によるとその3ヶ月後大地くんも結婚したらしい。
相手は瑠奈だ。
私と裕也先輩が味わったあの幸せな瞬間をあの2人も味わったのだろうか。
もしもあの時大地くんと復縁していたら、今貴方の隣に立っているのは私だったのだろうか。
今も貴方からの愛をもらっていたのは私だったのだろうか。
昔の私ならきっと笑顔で貴方の幸せを祝福できなかっただろう。
今の私は大地くんの幸せを笑顔で祝福できるよ。
でも、ちょっとほんのちょっとだけ後悔してる。
復縁してもよかったかなって。
あの時復縁してたら私たちの未来はどんな風に変わっていたのかな。
私の人生で1番大好きだった人。
今日で本当に本当に貴方のことを思い出すの最後にするね。
貴方との思い出に鈴蘭を贈ります。
さようなら。
