この思い出に鈴蘭を

午後5時12分

いつもだいたいこの時間に家に着く。

「ただいまー」

誰からの返事もない。

母は仕事に行っており、留守にしている。

私は家に入るなり、すぐに部屋着に着替えてソファーに寝転ぶ。

この開放感が私は好きだ。

だが、今日は母の帰りが遅い日なので夜ご飯の支度をしておかないといけない。

「何にしよう…」

冷蔵庫に目をやり、あるものだけでとりあえず作る。

自分で言うのもなんだが料理は得意な方だと思う。

しばらくすると母が疲れた様子で帰ってくる。

「ただいま、いい匂いするじゃん。もう食べれるの?」

「おかえり、もう食べれるよ。」

「光輝は、塾だから帰ったら食べるからやけといてあげてね。」

そういい、母は自分の分のご飯をよそい食べ始めた。

私も晩御飯を済ませ、お風呂に入る。

私がお風呂を出る頃には光輝も帰ってきいた。

光輝が私の作ったご飯を見るなり、嫌な顔をする。

「俺、野菜の気分じゃない。いらない。」

私が作ったのは野菜炒めとお味噌汁。

「野菜炒めもお肉入ってるし、お味噌汁は野菜入ってないからいいじゃん」

「野菜が少しでも入ってるから嫌だ」

「そんなにわがまま言うなら食べなくていいし、もう、私はお前の分のご飯なんか作らないから」

光輝の言葉に本当に腹が立った私は少し言い過ぎてしまった。

すると光輝は泣き出してしまい、お風呂場にいた母が出てくる。

「なに?どうしたの?」

「優奈が野菜食べろって怒ってきた〜」

泣きながらそう訴える光輝を母は抱きしめて私のことを睨みつける。

「光輝が嫌って言ってるんだから別の作ってあげたらいいじゃない。お姉ちゃんなんだからちょっとは優しくしてあげたら?」

「いや、好き嫌いで残すのとかダメだし、お姉ちゃんだからとか言うのやめてよ!ずっとずっと、光輝ばっかり可愛がって、私の居場所なんてないんでしょ!」

「何急に」

冷静に私にそう言い放つ母の顔はすごく憎そうな顔をしている。

「別に急じゃないし、ずっと思ってたことだから!私なんてどうでもいいんでしょ。光輝と私、お父さん違うもんね。光輝のことの方が好きなんでしょ」

私と光輝はお父さんが違う。

年も7つほど離れているので、光輝が生まれてから母からの愛が全て光輝に持っていかれているような気がして、すごく辛かったのを覚えている。

「決めつけないでもらってもいい?どっちも同じくらい好きだけど」

「だって、私は塾なんて行かせてもらってないし、今日だって私の意見聞かずに光輝の意見ばっかり聞くし、私にはいつも冷たいし、なんでなの」

「普通に年離れてるし、何歳相手にムキになってんの?笑」

私のことを馬鹿にしたような顔で笑いながらそう言う母に私は呆れてしまった。

「もういいよ、寝るから」

どうでもよくなった私は自分の部屋に駆け込んだ。

私なんてやっぱり必要とされてないのかもしれない。

お母さんにとって私はなんなの?

ただの家事してくれる人?同居人?

光輝が生まれる前はこんなんじゃなかったのに。

母は私だけのものだったのに。

そう思うと涙が溢れてくる。

なんで私ばっかりこんな思いしなくちゃいけないの。

こんなんならもう死にたい。

そう思っているとメッセージが届いた。

「もう通話できるけどいける?」

裕也先輩からだ。

忘てた通話の約束してたんだった。

今は正直あまり乗り気になれない。

だけど約束してしまったものはしょうがない、

そう思い私は涙を布団で拭いながら「できます」そう一言だけ返した。

ブーブー

するとすぐに裕也先輩から通話がかかってくる。

なんだかんだで初めて声を聞く気がする。

少し緊張する気持ちを抑え私はその通話をすぐに出た。

「もしもしー、遅くなってごめんね」

「大丈夫ですよ!全然まだ9時ですし!」

無理やり声を上げ、平然を装う。

「今日は何かあった?声震えてるように聞こえたけど。」

「んー、大地くんのことは特に!でも家族のことでちょっと…」

私はさっきあったことを裕也先輩に話した

「そんなことあったんだね。優奈ちゃんは大人っていうかしっかりしてるよね。高校生なのにちゃんと夜ご飯作ったり、俺なんか料理もまともに作れないから尊敬するよ。」

裕也先輩は優しい声で私のことを褒めてくれる。

「そんなことないですよ笑今日も母さんとも光輝とも喧嘩してちゃって恋愛も人間関係もなかなか上手くいかないです。あ!そうだ!でも今日学校でお友達できたんですよね!可愛くて、元気で、一緒にいて楽しいんですよ!」

「そうなんだ!よかったじゃん!優奈ちゃんって友達とか多そうだよね!」

「全然そんなことないです笑本当に人と話すの苦手で、いつも頑張って話しかけてます笑」

「苦手なことでも頑張ってるの偉いね!」

「裕也先輩はなんでも褒めてくれるから、調子乗っちゃいます笑」

「そうかな?思ったこと言ってるだけだよ笑」

私と裕也先輩はたわいのない話で盛り上がった。

裕也先輩と話していると落ち着く。

大地くんとは違う声を聞けた時の安心感。

裕也先輩といると大地くんがいない寂しさを紛らわすことができる。

裕也先輩の声を聞きたい、話を聞いてほしい。

私はいつしかそう思うようになっていた。

この日からというもの、私と裕也先輩はよく通話をする仲にまでなっていた。