午前9時45分

朝起きて一階に行き顔を洗う

「お誕生日おめでとう」

母がキッチンで作業をしながらそう言う。

「ありがとう!」

「もう16歳なんて早いね」

「そうだね」

少し感慨深い顔でそう言う母に私は笑顔を向け足早に自分の部屋に帰った。

部屋に入って直ぐスマホを確認する。

「裕也に話したの?」

そう一言大地くんから連絡が来ている

「うん」

そう返すと直ぐに返信が来た

「なんで?」

「昨日誕生日だから通話したいって言ったら断られて辛かったから、相談したら俺から話すよって言ってくれて、お願いした」

「俺の話他に人にしないでって言ったよね」

「裕也先輩は大地くんの友達だから大丈夫かと思った。」

「裕也もダメだし、裕也からの俺への信頼下がるとか考えなかったの?」

また自分のことばっかり、もう疲れたよ。

「じゃあ言うけど、誕生日なのに他の女の子と通話して、その時の私の気持ち考えなかったの?」

少し怒った口調でそう返信した。

「なんで俺が優奈の気持ち考えなきゃいけないの?束縛は嫌いだって言ったよな?」

「束縛じゃないでしょ、過去に自分浮気してるんだよ?それで私からの信用ないことくらい考えたらわかるでしょ。それで不安だからやめてって言っても束縛とか重いとか言って私のこと避けてきたのそっちじゃん!」

今までの感情が爆発した私は後先考えずに怒ってしまった。

でも、もういいんだ

大地くんになんて思われようと。

これでわかってくれないなら私は大地くんとの関係を終わりにしたい。

もう我慢ばっかりの生活は疲れたよ。

「それでも復縁したいって言ったのは優奈でしょ。それで信用ないとか言われても困るし、俺が女の子と通話してただけで不安になったり、されてもこっちが困る。優奈重いしめんどくさい。」

「もう、いいよ。最後まで私の気持ちは理解しようとしてくれなかったね。私はこんなに大地くんのことを思って考えてたのに。私ばっかり我慢する関係は疲れたよ」

「知らないよ。それを選んだのは自分でしょ?」

そうかもしれない、けどやっぱり私だって大切にされたい、大事にされたいよ。

「そうだね。」

「うん、だからもういちいち裕也に相談したらすんなよ。めんどくさいから」

「いや、もう大丈夫。別れよう」

「え?本気?」

私はもう大地くんとの関係を終わらせたい。

今まで約一年半大地くんのことばかりを考えてきた。

けどもう疲れたんだよ。

大地くんのことは大好きだよ。嫌いになんてなれるわけないよ。

でも、もう一緒にいられない。

前に萌が言っていた、「好きって気持ちだけじゃ一緒にいられない。」その言葉の意味が今よくわかった気がする。

「うん、本気だよ」

「俺は別れたくないよ」

最後は引き止めてくるだね。

付き合ってる時は全然私のこと構ってくれたことなかったのに。

最後にそんな態度ずるいよ。

私はもう決めたんだ。

私は次に進む、大地くんを置いて。

さようなら、大好きだったよ。

今までで1番ね。

「ごめんね、もう限界なんだ。」

「なんでだよ。ずっと俺のこと好きだったじゃん」

「好きだったよ、大好きだった、なんなら今も同じ気持ちだよ。でも、私ばっかり我慢したり、女の子と通話とかして、嫉妬するのも全部疲れたんだよ」

「俺、変わるから。優奈のこと大事にするから」

「今更引き止めないでよ」

「ごめん、俺のせいだね。」

「うん、ごめんね、さようなら。大好きでした。」

「こちらこそごめん。俺もだよ。」

「ありがとう」

「俺、絶対変わるから。次の子は絶対寂しい思いさせないから。」

「わかった。」

2人の関係はここで止まってしまった。

なんで私の時に気づいてくれなかったの?

私の時に変わって欲しかった、ずっと一緒に居たかった。

今更好きだったなんて、最後まで冷たくいてよ。

いつもみたいな大地くんでいてよ。

じゃないと、未練残っちゃうよ。

心に大きな穴がぽっかり会いたように胸が苦しい。

大地くんに会いたいよ。

私がふと部屋の棚の上に目をやると大地くんから貰ったお揃いの香水が置いてあった。

「これ私と大地くんが付き合った日に貰った、香水だ。」

何を思ったのか私はそれをゆっくり蓋を開け1プッシュ枕にふいた。

香りは匂わないとなかなか思い出せないが、匂うとすぐにその香りとの思い出や出来事を一瞬で思い出すことができる。

頭は覚えてなくても、身体はずっと覚えてる。

匂った瞬間大地くんと初めてハグした時や身体を重ねた日、何もない日に会えた日、付き合えた日、通話していた時の話の内容までも鮮明に頭の中に浮かび上がった。

机の上の鏡を見て初めて自分が泣いていることに気がついた。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。

ただ私は大地くんと2人でいられたらいいだけだったのに。

誰にも取られたくないだけだったのに。

こんな気持ちになるくらいなら出会わなければよかったのに。

溢れ出した涙は止まることを知らないみたいだ。

ずっと流れ落ちている。

私はまだ大地くんの匂いが残った枕をギュッと抱きしめた。

苦しいよ。

1人でいるとどうにかなりそうなくらい頭が痛い。

あ、そうだ。とりあえず瑠奈に報告しよう。

私はずっと相談に乗ってくれていた瑠奈の存在を思い出し、すぐに連絡を取った。

「瑠奈、久しぶり」

「久しぶりー、どしたん?」

「別れた」

「え?最近話し聞いてないって思ってたら、なんかあったの?」

私は今まであった大地くんとのことを事細かく瑠奈に説明した。

萌から連絡が来たこと、友達とナンパしてたこと、誕生日に他の女の子と通話してたこと。

全部話した。

大地くんとの思い出を振り返ると辛い思い出の方が圧倒的に多いのに、何故か懐かしく、あの頃に戻りたいと強く思ってしまう。

「最低だよ。別れて当然だよ、私はずっとあんな奴と優奈が付き合ってるのダメだって思ってたんだからね!」

「でも、優しいところもあったんだよ」

何故だろう。大地くんのことを庇ってしまう。

本当は大嫌いで、最低で、クズな男って自分の中でわかってるはずなのに、優しくなんてされたことないのに。

最後の、「俺も」その一言が自分の中で引っかかって仕方がない。

大地くんも私のこと好きだったのかな。

そう思うと振ってしまったことへの後悔が押し寄せる。

「優奈は優しすぎるんだよぉ〜。優奈の選択は間違ってないと思うよ。今はまだ、好きとか会いたいとか思うのは当たり前だと思う。だってあんなに好きって思える人そうそう現れないよ?」

「そうなのかな?私本当は最低な人ってわかってるのに、何故か庇ってしまうのが悔しい。」

「辛いよね。ゆっくりでいいから忘れるように頑張ろうね」

「うん、ありがとう。」

瑠奈の言葉は私を勇気づけた。

私の選択は間違えてない。これで正解なんだ。

ゆっくりでいいから忘れよう。

大丈夫、直ぐに忘られる。

時間が解決してくれる、きっとそう。

私は深く深呼吸をした。

あ、裕也先輩にも言っておかないと。

そう思い直ぐに裕也先輩に連絡した。

「こんにちは、今大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。どした?」

「別れました。」

「え?そうなの?大地から昨日なんか言われたの?」

「裕也に俺の話したの?って言われて、したって言ったら怒られて、もう私も我慢の限界だったんで、別れようって言って別れました」

「そうだったんだ、辛かったね。よく頑張ったね。」

裕也先輩と瑠奈は私の気持ちを否定しないで、肯定してくれる。

私は間違ってなかったんだ、そう思うと心が落ち着く。

「私まだ大地くんのこと忘られる気がしません。」

「いいんだよ。今はそれで、自分のペースでゆっくりで。」

大地くんのことを思い出して涙が溢れる。

別れた実感が少しずつ湧いてくる。

これ以上もう辛い思いをしたくなくて別れたのに、別れた後の方が辛い。

いつになったら私は思いっきり笑えるの?

もう辛い思いしたくないよ。

「忘たくない、まだずっと一緒に居たいよ」

ずっと言えなかった本当の気持ち。

裕也先輩なら受け止めてくれるよね。

「そうだよね。辛いよね。俺でよかったらいくらでも話聞くよ。」

「ありがとうございます。」

大地くんとは違う。

裕也先輩のは暖かくて安心する温もりがある。

大地くんのはドキドキしたり、大地くんの言動一つ一つで感情が浮き沈みしてた。

でもこんなに心地のいい優しさがあるなんて、初めて知った。

今まで大地くん中心の世界で、大地くんしか知らなかった。

別れてやっと気づいた。

大地くん以外にも私のこと認めてくれる人がいるってこと。

大地くんのことまだ忘られたわけじゃないけど、前を向こう。

「全然だよー。じゃあ俺ちょっと用事あるから、また辛かったら連絡しておいで」

「わかりました!」

裕也先輩との会話が終わり、ため息をつく。

1人になった私は大地くんのことを思い出す。

やっぱり1人は寂しいな。

大地くん、私のこと後悔してるかな?

悲しんでるかな、苦しんでるかな

私以外で幸せになんかなれないし、させない。

ずっと私のことだけ考えててほしい。

はあ、私なんでこんなこと考えてるんだろ。

大地くんが私のことなんて考えてるわけないのに。

どうせ、今頃他の女の子にナンパでもしてるんだろう。

そう考えると辛い。

私は目尻に溜まった涙をグッと堪えた。

やっぱりまだ大地くんのこと好きだなぁ。

せっかく勇気出して別れたのに、戻りたいって思ってしまっている私が居る。

でもそんなこと絶対にダメ。

本気で好きだった相手と別れたらもう友達には戻れない。

誰かが言ってた、私はその言葉を軽く聞き流していた、けど今やっと気づいた。

このことだね。

もう大地くんとは友達にも戻れない。

本気で好きだったから、愛してしまっていたから。

1番信じてたのに、その相手から裏切られることの絶望感を私は16で知った。

別れて、他人になったのにまだ大地くんに執着してしまっている。

私のこと考えてて欲しいなんて、他の人が見たらあんなクズ男にそんなこと思うなんて気持ち悪いって思うのかもしれない。

でもあの経験は私の人生にとって大切だった。

この経験は必然だった。

大地くんに執着してしまっている今のこの感情もきっと私の人生に必要だったんだよ。

あんなやつに私の大事な青春を初めてを全て捧げてしまった。

私の大切なあの時間はもう帰ってこないんだ。

大地くんに恋して、キラキラしていたあの頃の私は、もう居ない。

別れて私に残ったのは、大地くんに執着し続ける醜い自分。

なんで私のこと幸せにしてくれなかったの。

私はやるせない気持ちで胸が締め付けられる。

大地くんのことを考えれば考えるほど後悔と悔しさが募る。

忘れようとすればするほど、思い出してしまう。

幸せになりたい。

私のこと大事にしておけばよかったって絶対に後悔させてやる。

絶対私、寂しくなってもあんたに連絡なんかしない。

大地くんのこと忘られるまで、ゆっくり待とう。

時間が解決してくれることを信じて。