君の魅力も余裕で見抜けなかったのが悪いんだもん。あたしの本気度に釣り合ってないよ。「おんなじ土俵にすら乗れてないんだから、お引き取り願えますか?」って感じ。
あの子達……。
頭上から君の呟きが降る。「はへ?」なんて間抜けな声が出てしまう。あたしは頬っぺの拘束から逃れ、君の視線を辿ってみる。公園の外の通り、高校生らしき二人組を捉える。
恋人なのかな。おんなじ制服を着てる。男の子のほうは、率直に言うなら……不良くん? 何回もブリーチを重ねた金髪、耳にいくつも開いたピアス。鷹みたいに鋭い目つき。いつか君とネットフリックスで観た、アメリカの古い「西部劇映画のガンマン」を思いだしちゃった。
女の子はというと、《《別の意味》》で圧倒的なオーラを纏っている。ソフィー・アンダーソンの絵画世界から飛び出してきたような、凛々しさと可愛さを共存させた「花の妖精」そっくりの魅力を湛えて。
「あの子達がどうしたの?」
ううん、大したことじゃないんだけどね。ちょっと前……今年の春くらいかな。駅の近くの図書館でよく見かけた気がするなって――彼らを目で追いながら、うつつを抜かした口調で君が言う。
並んで歩く二人。砂時計みたいにゆっくり交わされる会話の、内容まではこちらに届かない。ふとした拍子に肩がぶつかったり、目があったり。ほんの些細なシンクロをきっかけに笑い合っている。
「とっても仲良さそう。笑い方そっくり」
とくに男の子のほう、笑うと目が線のように細くなって、リラックスした時の猫みたいに無防備で。ちょっぴり湧き上がる親近感、満足感? 人は見かけによらないこと、あたしは身をもって学んでる。
いつの間にか、夕暮れは深まっていた。微かに肌寒い。蟋蟀の鳴き方が変わった気がする。遠く彼方の空、うろこ雲の群れが薄桃色に染められている。
「そろそろ帰ろっか」
冷たくなったベンチから立ち上がった途端、バランスを崩してよろけてしまい、君に支えてもらう。
「あ、ありがとう」
どういたしまして――君の声、平静を装ってるつもりだろうけどさ。ふふっ……イタズラを思いついたって表情、バレバレなんだ。あたしの手を掴み、お互いの指を絡ませ合う。あたしは意図を汲み取れず、ぽけーっと見守るだけだから。息が合わなくてぎこちない調子なの、おかしくて。
「ねぇ、ちょっと。何なの?」少しずつ込み上げる恥ずかしさを誤魔化すように、あたしは身を捩る。
これでよし、って……「なんで恋人繋ぎしてるの?」



