空には丸い月が浮かんでいる。そんな中、家をこっそり抜け出し真っ暗な道をただひたすら歩いた。今は、夜の12時だ。家族が寝静まった今がチャンスだと狙った。私が通う高校は、家から十分ほど歩いた先にある。今では使われていない旧校舎のまわりには、桜の木が植えられている。
 門を軽く乗り越え、桜の木が植えられている旧校舎へ向かう。旧校舎は三階建てで、全階合わせると9室ある。三階の一番端の教室からだと桜がよく見える。その教室が私のお気に入りのところ。教室に入ると、月が黒板や机、椅子を照らしている。この旧校舎は古いから音がならないようにドアを開ける。そして、桜がよく見える窓を開ける。風に吹かれ、花びらが教室に入ってくる。この時間が現実だと思っていない自分がいる。
 映画のワンシーン、小説の情景の一部、自分がそれを見ているような感覚。ようするに、他人事に考えているということ。