私は神殿に仕えるシド・カンバーランドしかし家名のカンバーランドは神殿に入るときに捨てた。

 私は七十二代国王の第一子として生まれた。
 弟妹は、正妃の我が母から三人、側妃三人から合わせて四人、寵妾から合わせて二人の計九人いる。
 一番年の離れているのは側妃の一人が産んだ弟で十五の年の差があった。

 この国は魔力の強さで王が決まる。洗礼を受けると魔力を授かるが、それまで自分がどれほどの魔力を持つのかは分からない。
 ただ、両親がどの程度の魔力を持つかで大凡の予測は出来る。
 私の母は橙色の魔力を持ち、父はその上の魔力である赤色の魔力を持っている。
 だから私が赤色の魔力を授かることは分かっていた。

 私が十三で洗礼した時、橙の混じる赤色の魔力を授かった。
 そのまま、騎士団に入団し、弟たちが洗礼を終えるのを待った。
 一番末の弟が洗礼を終えたのは私が二十八の時だった。
 王位継承権のある王子が全て洗礼を受けたところで王位は同腹の弟が継ぐことが決まった。
 私は正直良かったと思った。
 王とは窮屈な生き方だ。
 その頃の私は魔獣討伐専門の近衛騎士団第一団隊に所属し、魔獣討伐に自分の才能を見つけていた。
 王になれば最前線へ行くことは叶わなくなる。

「シャルル、立太子おめでとう。名前ももう呼べなくなるのだな。年上だからと偉そうに出来るのも、これが最後か。」
「もう、出て行くのか?」
「あぁ。王族ではなくなった俺に王宮に住む資格はないからな。」
「…そうか。兄さん、俺の代わりに頼むよ。ウチの弟妹はことごとく剣が不得手だ。ラウルには公爵位を与えて後に私の宰相になって貰おうと思っている。あいつは人の機微に聡いからそう言う役回りが合っているだろう。兄さんはこのまま第一団隊に残ってくれるか?」
「いいや、俺は素直に神殿に行くことにする。役職は弟たちに残してやってくれ。」
「尊者になれば、魔獣討伐の最前線へも行けるからか。」
「あぁ。」
「兄さんと呼ぶのも最後になるか…慣例とはくだらない事が多いな。体に気をつけてくれ。」
「殿下も。有象無象に構わず、己の信じることをすれば良い。」
「私は次世代に希望を残せれば良い。」

 お互いよく似た顔で笑い合った。

「そう言えば、庭師の娘との間に生まれた子はどうした?」
「父上に知られると大事だから、隠すのに必死だよ。あの子だって我が子だ。彼らの世代が母親の貴賤に関係なく王の子として生きていける様に、そんな世の中に出来る様に頑張るよ。兄さん。」
「それじゃ、俺はそんなお前の子供たちが少しでも希望を叶えられるように力になるよ。シャルル、くれぐれも無理はするなよ。兄貴としての最後の言葉だ。それでは殿下、御前を失礼致します。」

 シドは臣下の礼をして、王宮を後にした。