「リュカッ。」

 自分が呼ばれて、肩をビッくとさせる。

「逃げないで、相手して。」
「イヤだよ。リナは手加減すると怒るんだもん。」
「だって手加減なんてしたら意味ないじゃん。」
「あっアラン。」

 アランはたまたま通りかかってしまった自分を心から悔やんだ。

「リナが剣術の手合わせして欲しいらしいよ。アラン剣術学年一位なんだし、アランが相手しなよ。」
「リナはリュカに頼んだんだろう?お前が相手しろ。」
「私はどっちでも良いの。」

 リュカとアランは互いを見合わせる。二人の二の腕はガッチリとリナに掴まれている。

「兄さんに勝つための練習なの。兄さんの実力と近い人とやらないと練習になんないのよ。」
「シルヴァンさんに敵うわけあるかよ。無理だからやめとけ。」
「アランは兄さん派なのね。」

 リナがじっと睨む。

「シルヴァン派も何も……伝説の人だぞ?」
「リナのお兄さんてそんなに凄い人なの?優秀だったとは聞いたことあるけど。」
「あぁ。平民ながら黄色の魔力を持っていて奨学金で通っていたんだ。」
「兄妹で黄色なの?凄いね。」
「君の国のウルバーノ王子が同学年で、王子に次ぐ次席で卒業したんだ。」
「王族も多く通うこの学院で?黄色魔力ってことは、魔術の実技は不利でしょ?それでも次席だったの?」

 リュカは目を丸くした。

「魔術の実技以外はほぼ首席だったんだよ。特に剣術は群を抜いてた。君のとこの王子が全敗だったくらい。」
「ウルバーノ様は剣の腕は確かで、騎士団ですら……」
「そう。その剣の達人に挑んで勝とうとしてるんだ。コイツは。」
「そんな無茶な……リナ、そんな無謀なことやめなよ。怪我したらよくないよ。」

 リナはふくれっ面になる。

「リュカまで。酷い。だって鍛練して戦ったらいつかは勝てるかも知れないじゃない。」
「ムリ。」
「無理だよ。」

 アランもリュカも即答する。

「絶対諦めない。」
「それに……リナは何のためにそんなに剣の腕磨いてるの?」
「平民だから、騎士団は無理だけど。もしかしたら国軍とか、貴族のご令嬢のメイド兼護衛とか…就職にも役に立つでしょう?黄色の魔力を持っていればお屋敷のメイドにはなれるだろうし。」

 リナは “勤め先が決まっている君たちとは違って色々頑張らないと” と付け加える。

「騎士団には女性騎士がいるって聞いていたけど国軍にも女性がいるの?」
「あぁ。国軍には女性で魔獣討伐している人もいる。魔力の強弱には男女差はないから。男性兵士よりずっと強い魔獣を倒す女性兵士もいるくらいだよ。」
「そんな強い魔力ってことは、貴族のご令嬢なんでしょ?」

 リュカは眉を寄せてアランに聞いた。

「そうだな。俺たちの二つ上のファロ伯令嬢は、武勲誇る家系で卒業後は国軍で魔獣討伐の最前線に立ちたいと言っているらしいぞ。まぁ、さすがに惣領娘って人はいないけど。次女や三女なんて人は国軍を目指す人も少なくないんだ。護衛が主な役割の騎士と違って、国軍なら、魔獣討伐が主な役割だからな。」
「わかった?納得したら付き合って、リュカ。」

 気を抜いていたリュカはリナに引きずられるようにして競技場に連れていかれた。
 アランは可笑しそうに笑ってそれを見送った。