恋する空

先輩は表情一つ変えずそのまま玄関から通路に出た。着替えくらいさせてくれると思っていたのに。この恥ずかしい格好で外に出るの⁉そんなのイヤ。ぶんぶんと頭を振った。
「暴れるな、落とすから。あんな所に真尋を置いとけない。もっと早く迎えに行くべきだった。辛い思いをさせてすまなかった」
『どういう事ですか⁉それに、なんでお姉ちゃんと一緒だったんですか⁉』
分からないことばかりだった。
「あとでちゃんと説明する」
それだけ言うとエトランスから外に出た。日差しが強く、朝からムシムシしている。人目に晒される恥ずかしさから、体を小さく丸め先輩の胸にしがみついた。
「真尋、真尋ちゃんこっち、こっち」
すぐ近くに停車していた車から、先輩のお母さんが手招きしていた。
香苗さんまで……何で?
「真尋からねあなたの事耳にタコが出来るくらい聞かされてね」
「母さん、その話しはいいから」
先輩の顔がまた赤くなった。むすっとしながらも、僕を後部座席のシートに乗せてくれた。
「今日一日、家でゆっくりすればいいわ。気は遣わなくていいからね」
『すみませんこんな格好で・・・お世話になります』
頭を下げた。タオルケットの端をぎゅっと握り締めた。まだ、手がブルブルと震えていた。先輩も隣に乗り込み、車がゆっくりと走り出した。頬杖をついて窓の景色ばかり見て、僕の方は一切見てはくれなかった。高校の近くで停車し、先輩が下りていった。声を掛ける間もなかった。
「真尋、遅い‼あれ、一年生は?」
「風邪で休み」
「だからか、寂しそうなのは」
「五月蝿いな」
「顔に書いてあるぞ、寂しいって」
校門の前で待っていた四人に笑顔で合流し、いつもの様にじゃれながら何事もなかったように登校していった。
「真尋ちゃん、どう、うちの息子!?」
急に聞かれて吃驚した。
「あぁ、見えて、恋愛には奥手でね。好きな子はいるのは分かってはいたんだけど、誰かまでは、分からなかったけど……」
香苗さんがミラー越しにニヤニヤと笑っていた。
「まぁね、息子が幸せになれば、相手は誰でもいいのよ」
ハンドルを握り、再び車が走り出した。
鈍感な僕でも、思わせぶりな香苗さんの態度に、はっと気が付いた。先輩が好きな相手が誰か。
「大丈夫!?顔真っ赤よ」
『あ、は、はい、大丈夫です』
平静を装うだけで精一杯だった。心臓が飛び出るんじゃないかってくらい、ドキドキして、全身がカァーーと、一気に火照り出した。
「詳細は真尋に聞いてね。結論からいうと、真尋ちゃん、今日から、うちの子だからね」
はじめ、何かの聞き間違いじゃないか。冗談だと思ったけど。