恋する空

【先輩のお母さんがね、自宅で料理教室をしていて、美味しい煮物の作り方を教えてくれたんだよ。お土産にもらってきたんだ。一緒に食べよう】
「あのな真尋」
苛立った目の中に、ぞっとするほど凶悪なものが走った。思わず一歩後ろに下がると、強い力で手首を掴まれ、もう片方の腕が腰に回ってきて、引き戻された。
やがて彼の腕がすっと離れていって、長い指が、顔の輪郭をなぞり、頬に触れ、唇に触れてきた。
きょとんとして見上げると、顎を掬い上げられ、彼の顔が近付いてきた。目を閉じる間もなく、唇に彼の分厚い口唇が重なってきた。
『うっーーっん‼』
思うように息継ぎが出来なくて、手足をバタつかせると、ようやく唇を離してくれた。クラクラと目眩を覚えながら、なんとか息を吸っていると、今度はふわりと体が宙に浮いた。
『嫌だ!』
ぶんぶんと首を横に振った。
「言っても分からない様だから、ベットの中で、じっくりと教えてやる」
僕、何もしてないよ。ただ有馬さんに美味しいご飯食べて貰いたいから、もっと料理の腕を上げたいって思っただけなのに。
「今ので充分満足だ。食欲は満たされても、性欲は満たされない。式を挙げたその夜に、真姫から、俺との子供は作らない、いらないと言われた。なんの為の結婚なのか、虚しかったよ。そんなときだ、真姫に弟がいることを知った」
有馬さんは、寝室に真っ直ぐ向かった。広いベットの上に僕を下ろすと、スーツの上着を脱ぎ捨て、すぐに、覆い被さってきた。
『やぁ………!』
恐くて体を捩らせ逃げようとしたけど、手首をがっしりと掴まれ、押さえ込まれた。
「一目見て可愛いと思った。目がくりくりしてて、柔らかそうな唇にすぐにでもキスをしたい衝動に駈られたよ。まさか、10歳のガキ相手に欲情するとはな。真姫に勘づかれ、お前が真尋だったらどんなにいいか。そう言ってやったんだ」
これってもしかして。
「そうだよ。少しは思い出してくれたか?」
有馬さんの左手が服の上からあちこち弄りはじめた。


『イヤっ‼』

彼の手が臀部から下へと滑り落ちていく。
もう、終わり。辛いけど、嫌だけど、好きでもない彼に、抱かれるしかない……。
諦めて、目を閉じた時だった。


ピンポーン、ピンポーンとけたたましくチャイムが鳴り響いたのは。