恋する空

「うちの母さん、料理と菓子作りが趣味で、自宅で料理教室を開いているんだ。味は保証付だ。安心して食べろ」
(先輩、僕が作った弁当、絶対美味しくないから食べない方がいいかも)
不安でいっぱいになった。お腹壊したらどうしよう、そればかり考えていた。
「そうか⁉この卵焼き、甘くて美味しいぞ」有馬さんみたく、美味しいを連呼して、僕の作ったものを嬉しそうに頬張る先輩を見てるうち不安な気持ちがすっーと消えていった。
(頂きます)
両手を合わせて、先輩のお母さんが作ってくれたお弁当を広げ、唐揚げを口に入れた。
なんか、懐かしい味。
素朴だけど、じんわりと心に染みてくる。
これが、母の味なのかな。
物心が付く頃にはすでに母は側にいなかった。
いつも知らない女の人の顔色ばかり伺って、ビクビクしていた記憶しかない。
「真尋⁉もしかして、泣いてるのか⁉」
先輩に言われるまで、自分が泣いている事に気が付かなかった。
「拭くものがないからこれで我慢してくれ」
先輩の手がそっと涙を拭ってくれた。
指先が頬に触れた瞬間、胸がドキドキして、息苦しくなった。
有馬さん以外の人にときめくなんて。信じられなかった。
顔を耳まで真っ赤にし、狼狽えながら下を向くしかなかった。
追い打ちをかけるように、一部始終見ていたクラスの女子が、一斉に悲鳴を上げ、じろりと僕を睨み付けてきた。

もう、イヤだ。

俺の母さんが真尋に用があるだって。校門を出るとそのまま先輩の自宅に連れていかれた。重厚な門扉と高くそびえるレンガ塀に囲まれたニ階建ての豪邸だった。
「はじめまして。広瀬真尋の母の香苗です」
手話で挨拶をされたからびっくりした。
笑顔が素敵で、とても優しそうな女性だった。
「昔ね、耳が不自由な女の子が主人公のドラマが爆発的に大ヒットして、続編も放送されたの。その影響で私も手話を習っていたのよ」
「いつの時代の話しだよ」
「真尋、ちょっと黙ってて。私はこっちの真尋ちゃんと話しをしているんだから」
『はじめまして。広瀬真尋です。宜しくお願いします』
手話で挨拶し頭を下げると、
「堅苦しい挨拶はなしよ。それよりもこっちに来て」
手首を掴まれ、あれよあれよという間に台所へ連れていかれた。