冷たかった空気は少しずつ暖かみを帯びてきて、春が近いことを予感させる。
 雨が続いていたことが嘘のように、澄み渡った青空が広がる今日、私は高校を卒業する。
 大好きな彼と旅立ち、同じ大学に進学する。
「鈴ー!」
 名前を呼ばれて振り返れば、卒業証書を片手に駆けてくる彼の姿が見える。
 彼に置いてかれそうになったこの正門も、もう通ることはないのだろう。
 新しい生活への期待や不安に、一つの寂しさが顔を覗かせる。
「遅いよー、暁斗くん」
 辛かったけど、楽しかった三年間。
 何度も馬鹿にされて、嫌がらせも受けた。
 そんな私を彼は、また巻き込まれるかもしれないのに、助けてくれた。
 香織たちがいて、彼がいて、辛かった日々が、永遠の宝物のようになった。
 大嫌いだった声も、彼が好きでいてくれるから、今は自信を持っていられる。
 彼のことが大好きだから、彼が私のことを大好きでいてくれるから、私は希望が持てる。

「演技」が私たちを結ぶなんて、思いもしなかった。
 彼と付き合って、だいたい二年と半年。
 毎日のように話して、毎日のように連絡し合って、毎日のように通話した。
 彼を見たくて、彼をもっと知りたくて、彼の声が聴きたくて。

「暁斗くん」

「ん?」

「大好き」

 恥ずかしくて伝えるのを躊躇っていたことも、今ではたくさん伝えられる。
 
 何度も伝えないと気が済まない。

「俺も、大好きだよ」

 いつかの演技を思い出す。

 私たちを繋いだあの演劇を。

「絶対、離さないから」

 私たちはそれを約束するかのように、優しい口付けを交わした。