次の日から、実行委員の仕事は始まった。係の仕事は一ヶ月前とまだ余裕があるからか、意外と多くはなかった。でも、実行委員の人が少ないせいで、作業量は多くて大変。

「塩野さんー!こっち手伝ってくれないー?」
「はい」

しょうがなく看板の下書きを手伝う。……こんなのも、先生がやればいいのに。

「めんどくさいなぁ」
ぽつりと呟いてしまう。
「そんなこと言ったらダメですよ。」
いつの間にか隣から声が聞こえた。

「後輩……!」
昨日自転車でぶつかった、ちょっとうざい後輩が横に座っていた。
「プッ……なんですか、後輩って。俺の名前あるんですから、名前呼んでくださいよ。」
苦笑しながら言われた。
「なんだっけ名前、波多野(はたの)(そう)?」
曖昧な記憶の中から名前を挙げる。
「はい。」
「じゃあ、波多野ね。波多野はわたしのことなんて呼ぶの?」
「先輩は先輩なんで、先輩って呼びます!」
自分で後輩って呼ぶなって言っておいて、わたしは先輩呼びなの?
「……いいけど。」

——「はい!もう下校時刻なので今日はおしまい!明日も頑張ろうねー」
わたしと同じ学年の、山瀬さんが終了の合図を出す。山瀬さんは、実行委員の実行長だっけ。数少ない実行委員の一人だ。

「先輩、今日も一緒に帰りましょう」
波多野が帰る支度をしながら言う。他の実行委員の人はもういない。
「え?一人で帰りたいんだけど」
「昨日は一緒に帰ったのに?」
「昨日は……」
確かに昨日は一緒に帰ったっけ。でも、今日からは一人で早く帰って、家で休みたい。
「だめですか?」
子犬のような目をして、こっちを見てくる。やめてほしい。少しムカついてきた。
一人で帰ることが出来ないの?一緒に帰る友達がいないのか。波多野なら友達がたくさんいそうだけど。その友達と帰ればいいのに……。だんだんとマイナスな気持ちが広がってくる。
……高校に入ってから友達がいない自分と比べてしまう。
「無理」
「なんでですか」
「あんたは友達がたくさんいるでしょ?」
「……」
「その友達と帰ればいいじゃない!なんで……なんでわたしなんかを誘うの!」
ついカッとなって大きな声で言ってしまった。シーンと静まり返った部屋。……どうしよう、沈黙が気まずい。波多野の顔を見ることが出来なくて下を向いてしまう。波多野は何も言わない。
さすがにこの空気は耐えられない。急いでカバンを持ってドアを開け、会議室を出る。昇降口まで走った。

靴を一人で履き替えながら思う。……やっぱりキレすぎたよね。わたしの悪いところが出てしまった。すぐにキレて怒ったり口が悪かったりするところ。自覚はしてる。でもついつい言ってしまう。
明日どうしよう。さっきも気まずかったけど、明日とかの方が気まずい。謝る……?今のは絶対わたしが悪かったよね。波多野はどんなふうにわたしのこと思ったかな。先輩なのにおとなげないとか、カッコ悪いとか思われてるよね。
でも、まず一番は謝ることだな。謝らない方がもっとカッコ悪い。明日は早く学校に行って、波多野の教室の前で待っていよう。