身長185センチ、体重78キロ。
 成績は中の上で、歳の割には強面、剣道部主将。

 世間ではクラスカースト上位にいてもいいはずのスペックだと自分では思っているけれど、現実はそう上手くはいかない。クラスのやつらはみんな弟や妹のように小さくて、俺が少し力加減を間違えて背中を叩こうもんなら、すぐに吹っ飛んでいってしまう。
 友人との身体的接触に怯えていたら、いつの間にかクラスメイトとの間には、何とも言えない微妙な距離が生まれていた。

 「なんかあれだよな、お前、人里に降りてきたバケモンみたいなこと言うよな、たまに」

 体育館への移動中、頭2つ分ほど下で茶色い髪が揺れる。ジャージの袖を大幅に余らせ、ズボンの裾は10センチ幅で折ってもまだ床に擦れていた。162センチしかない依弦(いづる)は、いつも俺の目線の下でからからと笑っている。

 「バスケとか超こえーんだからな。骨とか折っちまった日にゃどうしたらいいか……」
 「んな簡単に骨なんか折れねぇよ。オレだってそこそこ丈夫だわ」
 「説得力なさすぎる。小さいんだから大人しくしてろって……いてっ!」

 最後の一言に腹を立てた依弦が俺の脇腹にキメたパンチにはそれなりに重量があって、かふぅぅ、と口から空気が漏れてしまった。
 体育館を2分割して、女子はダンス、男子はバスケの準備をする。体育館に2クラス分の生徒が集められて、それぞれが決められた課題をこなす。
 俺の図体のデカさは、本気のスポーツならばそれぞれのチームから喉から手が出るほど欲しがられるのかもしれないが、お遊び程度の競技では求められていない。
 ゲームバランスは崩れるし、何より怖いらしい。
 そりゃそうだ、俺だって2メートルを優に超える人間に迫ってこられたら恐怖で逃げ出す自信がある。

 「Aチーム対Bチーム! 審判はCチーム!」

 体育教師の声で生徒がぞろぞろ動き出す。俺はAチームで、依弦と同じだった。名簿が前後だと、こういうとき必ず同じチームになる。

 「おい泰斗(たいと)! お前ゴール下から動くなよ!」

 コートの真ん中でジャンプボールの準備をする依弦が、俺に向かって声を張る。せっかくコートの隅っこで、できるだけみんなの視界から外れられるように息を潜めていたのに。
 ジャンパーは話し合って決められたわけではなかったらしく、同じチームのメンバーが、信じられないといった顔でこっちを見ていた。

 「木爪(きづめ)がジャンプボールとか一番ないだろ! 春日井(かすがい)にやらせろよ!」
 「あいつタマちっせーから無理だって。なぁ! 泰斗!!」

 言われた通りにゴール下でじっとしていると、依弦が口角の片側を器用に吊り上げて至極楽しそうに言い放った。

 「オレが送る球、全部入れろよな」

 ピーーーッと開始を告げる笛が鳴る。ボールが垂直に飛び、味方の手に渡るのを、息を飲んでただ見守る。

 小さい身体は、誰よりも高く飛んだ。