「はよー」
今井くんが気まずそうに私に声をかけた。
「お、おはようっ」
少し声が裏返ってしまったが、なんとか答えられた。私はぎくしゃくとしながら意味もなくトントンと教科書とノートの角を揃えた。
「あーっと。返事、急がなくていいから」
小さくそれだけ言うと、今井くんは自分の席へ戻って行った。
放課後、今井くんがまた私の元へとやってきた。教室にはまだ数人他の生徒が残っていたが、にこにことこちらを見守っている。
「今日も、昨日のカフェ行かねえか?」
私は眉を寄せた。今日はお母さんの誕生日なのでケーキを買って早めに帰りたい。それを告げると、今井くんはぶんぶんと手を左右に振った。
「いやいやいやいや、そんな申し訳なさそうに言うなって! 『ごめーん、用事があるんだっ』とかでいいから! 誘ったこっちが申し訳なくなる!」
「ご、ごめん!」
「いや、さらに謝んなって!」
今井くんはそう答えたあと、ぶっと吹き出した。
「な、なに……?」
私はおそるおそる尋ねた。今井くんは微笑みかけてきた。
「いや、ほんとやっぱり相原面白えわ」
「面白い?」
首を傾げると、今井くんは「あ、違うぞ、変な意味じゃねえぞ、かわいいってことだ!」と補足して、その後勝手に赤くなった。 私は反応のしようがなくてもじもじしながら話を戻した。
「ごめんね。私も今井くんみたいに自分らしくなれたらいいんだけど……」
「は?」
今井くんはすっとんきょうな声を上げた。
「今の相原は自分らしくねえの? もしかして、おとなしめキャラ作ってるけど本当はイケイケ姉さんとか?」
大真面目な顔で言う今井くんが少し面白かったが、笑わずに私は補足した。
「まさか、違うよ。ただ、思ったこととかやりたいこととか自由にできない性格だなあって」
「それが相原じゃね?」
「え?」
「思ったこととか自由にできない。それが相原そのものじゃね? めっちゃ相原らしいと俺は思うけど」


