僕の大好きな人が、今日も笑えますように


 運転をしながら、僕が凄い凄いと言った景色を、のぞみさんがそっとスマホで写真に収めてくれる。

 偶にストーリーのネタを考えるためにドライブをする時は、目に脳で命令しただけで動画かキャプチャが撮れる機能がないものだろうかと思っている僕だが、二人だと代わりに撮ってもらえる上に共有してもらえて、しかも僕が気づいていないことまで感想をくれると知った。

 ――最高すぎやしないだろうか。

 富士山が見えては綺麗だと呟いて。
 山を抜けた先に海が見えたと興奮して。
 ナビ通りに進んだ有料道路がETCかと思ったら現金だけで焦って。

 そんな道程が楽しい。
 なにより助手席ののぞみさんの声が明るくて、止まった時にこちらを向いてくれる笑顔が素敵すぎて、僕は到着の前から幸せの許容量が溢れてしまいそうだった。

 僕が行きたいですと言った時も、のぞみさんはとても冷静な表情で。「良いね」という感じだったが、僕にとっては女性と旅行に行くなんてイベントは初めてである。
 更にいうと、初恋なのだから当たり前だが、好きな人と遠くに行くなんてことも初めてだった。

(凄くドキドキしながらでも、旅行行きたいって伝えて、良かったなぁ)

 僕はそう思いながら、意識して真っ直ぐを見ながら運転をする。そうしないと、ついつい横顔を見てしまいたくなるのだった。

「もう少しかな? あ、向こうに島が見える、写真撮って共有しておくから見ちゃ駄目だからね」

「あはは、大丈夫ですって。安全運転ですから」

 そんな会話をしながら、車を走らせていく。
 海沿いの道をこのままたどれば、今日のホテルに到着するはずだった。

「荷物は先に預けて良いってことだったけど、チェックインは15時だから少し遅めのお昼にしようね」

「はい、夜は海鮮のバイキングらしいですけど、せっかくなら散策したいですよね」

 時刻はもうすぐ十二時。夜のバイキングのためにお腹を空けておきたい気持ちと、せっかくなら色んなものを食べたい気持ちが既にせめぎ合っている。

「うん、行ったことないから楽しみだな……ねね、直人くん」

「なんでしょう?」

 海沿いをパシャリパシャリと撮っていたのぞみさんが尋ねてくるのに、僕はそう聞き返した。すると、のぞみさんは少し照れたような口調で告げる。

「私さ、結構いろいろなところ見つけて、ふらふらっと写真取ったりするのも好きなんだよね……直人くんならもしかして、迷惑に思わずに付き合ってくれるかな?」

「え? それを迷惑に思う人がいるんですか?」

「うーん、割とお父さんもお母さんも、後は友達も、知り合いも。『のぞみがまた変なのに目移りしてる』って感じだったかな? だからさ、今、凄い楽しくてテンション上がっちゃってるかもしれない」

 そののぞみさんの声は、本当に弾んでいて、僕はその顔を見たい気持ちを鋼の心で抑えて告げた。

「あの僕も、普段も下調べとかあまりしないで、見かけたところとかにふらふら行っちゃうんですけど――」

「ほんとに? 気を遣ってたり……は直人くんはしないか。ふふ、じゃあ着いても沢山散策しようね」

「……はい」

「直人くん前見て前見て! こっち向かなくていいから!」

 僕には鋼の心なんて無かった。
 そして、のぞみさんのはにかむような微笑みは可愛くて、二人でいたとしても目に脳で命令しただけのカメラは必要だった。